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打ち上げレポート



松田剛吏氏
 『MS IGLOO』スタッフインタビュー、第3回のテーマはズバリ「演出」。言葉の意味としては「脚本の意図を読み取って表現の統一と調和を図る仕事」なのだが、その実態は意外と知られていないのでは? そこでご登場願ったのが、演出を担当した松田剛吏氏。『MS IGLOO』には、アニメーターとしてキャリアをスタートし、その後多くのCG作品で3Dコーディネーターとして手腕を振るった氏の経験が、大きく貢献しているのだ。

「監督」とは似て非なる
「演出」の役割とは?

――まず、アニメーション作品や『MS IGLOO』にクレジットされている「演出」の役割からご説明願えますか?
松田:基本的には、監督が絵コンテなどで示したビジョンを、実際の映像にする役目です。例えばコンテには「人物が右から左へ」動くことは指示されていても、「どう動くのか」までは指示されていません。でも、クマみたいな艦長と23歳のマイでは動き方などの「芝居」が違うはずですから、そこを肉付けたうえで現場を統括し、画にしていくのが演出の役割ですね。

――つまり、絵コンテの意図の汲み取り方などで意志の統一を図る、現場指揮官のような役目なのですね?
松田:ええ。ただ、TVアニメでは「監督」がいて物語を掌握する「シリーズ構成」がいて、実際に1話1話を担当する「各話演出」がいるんですが、具体的な画面演出をほとんど任される監督もいらっしゃれば、突っ込んでディレクションなさる監督もいらっしゃるんで、作品によってもスタンスは違います。『MS IGLOO』では、今西監督がかなり詳細な絵コンテを描いていました。その意味では、現場指揮官というより中間管理職のようなものでもありましたね(笑)。


細かな芝居に光る
アニメーターとしての経験値

――しかし『MS IGLOO』では、人物の動きはモーションキャプチャーを使っていますよね?
細かな芝居の部分では、それでも充分ではないんですか?
松田:モーションキャプチャーのデータでは、身体の全体的な動きはリアルに再現できますが、表情や手の指の動きまでは再現されていませんから、やはりいちいち作ってやらないといけないんです。そのへんは2Dアニメのアニメーターとまったく変わらないですね。アニメーターというと「絵を描く人」というイメージが強いかもしれませんが、むしろ実際は役者なんですよ。自分で動くわけではないけど、演技を作る人ですから。アニメーターの仕事現場を見ると面白いですよ。みんな自分で「こうかな?」とか、ヘンな動きしながら描いてますから(笑)。
 とくに『MS IGLOO』は人物がリアルなCGですから、僕も鏡を見ながら表情のシワの寄り方をつぶさに確認したりとか。やはり、2Dアニメは記号表現そのものなんですよ。最近はリアルタッチの作品も増えてはいますが、それでも例えば「ニッと笑う」とき口元の動きなどは、3Dでやっちゃうと俯瞰で撮ったら怒って見えてしまったりとか。そういうのをどうやって3Dのリアルなキャラに置き換えていくかが課題でしたね。常日頃から研究していたつもりではあったんですけど、やはり記号表現に慣れすぎている部分は否めなくて「こんなに描けなかったかなぁ」と思うほどでした。


2Dアニメの手法と魅力を
リアルな3DCGの世界へ

――逆に、メカのシーンなどはモーションキャプチャーを使っていませんよね?
松田:メカはもちろん、人物でも無重力状態で漂ってるシーンはモーションキャプチャーできないですし、表情筋の動きまではキャプチャーしてないですからね。実はそういう部分は、2Dアニメと同様にラフ原画を描いて動きを指示したりもしています。

――原画というのは、2Dアニメで言う「動画の方があいだを埋める要所要所の絵」ですよね。どのぐらいの頻度で描くものなんですか?
松田:それは動きによりますね。速い動きだったらそれだけ間の絵を沢山描かなくちゃなりませんから。『MS IGLOO』はメカシーンの動きがかなり激しいんで、1作終わる頃には、2〜3000枚の作画用紙を、僕ひとりでそっくり使いきりましたよ。もっとも、実際の作業では2Dアニメとは難しさのポイントがまったく逆の場合もありますけどね。
 例えばMSの編隊飛行など、人の手で描く2Dアニメの場合、どうしても綺麗に並ばないので「キッチリ描こう」と心がけるものなんです。逆にCGでは、単にモデルを置いただけでは呆れるほど正確に並んでまっしぐらに飛んじゃいますから(笑)、逆に腕や脚をちょっと曲げたり、編隊に微妙なブレを加えてあります。理詰めで考えれば宇宙空間を真っ直ぐ飛ぶのにブレなんか出なるわけがないんですが、それだと絶対リアルに見えないんですよ。「リアルっぽい」と「リアル」はまったく別なんです。
 その点、2話のヒルドルブは難しかったですね。もう、そのものズバリ戦車ですから(笑)、MSと違って視聴者も本物の映像を見ているじゃないですか。こうなると「リアルっぽい」じゃ済まないんで、本物の戦車の映像などを参考にしました。それでもCGの画面では実写の情報量にかなわないですから、逆に見せたい情報だけを誇張して、そういう不備を見え難くしたりもしています。

――その意味では、『MS IGLOO』の演出は、2D的手法と3Dならではの手法のハイブリッドなわけですね。
松田:確かに表現的には「いいとこどり」と言えるかも知れません。フル3Dで2Dアニメっぽい動きや演出がどこまで使えるのか? 逆に使えないなら、どんな風にすれば今までと同等以上のモノが作れるのか? 僕ら自身、第603技術試験隊と同じで、日々その実験に勤しんでいるんですよ。



(C)SOTSU AGENCY / SUNRISE