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CGスーパーバイザー:小畑正好氏
小畑正好氏『MS IGLOO』の最大の特徴と言えば、全編がCGによって制作されたガンダム作品であることだろう。そして、アニメや実写とも違う、新しい映像のジャンルであるCGによる映像制作を行うには、当然ながらその道のスペシャリストがいなければ作品として成立しえないのである。そこで今回のインタビューは、『MS IGLOO』のCG制作のキーパーソンとも言える、CGスーパーバイザーの小畑正好氏に登場願った。NHKの教養番組でのCG制作を手掛け、早稲田大学の工学部の講師を務める、国内でのCG制作者の中でも屈指のスペシャリストは、果たしてどんな人物なのだろうか……? そして、今や映像製作の現場に欠かせなくなったCGを作るにあたって、重要な役目を果たす“CGスーパーバイザー”という仕事とは?

映像現場に欠かせない存在・CGスーパーバイザーとは?

――『MS IGLOO』に関わられたきっかけから教えていただけますか?
小畑:サンライズさんとは、7〜8年くらい前、当時の「アスキー」さんのゲームソフトのムービーを今西さんが制作されていて、そのCG制作でサンライズさんからお呼びがかかり、それ以来映画の仕事でDIDさんに御世話になったり今西さんのお手伝いをさせていただいたりで、その流れで今回の仕事も参加させていただけることになりました。『ダイノゾーン』(97年サンライズ・バンダイ制作のCG作品)、『激闘! クラッシュギア TURBO』(01年)、『出撃! マシンロボレスキュー』(03年)などの劇中でCGが登場する割合の高い作品をやらせていただいています。
――小畑さんは、CGのスーパーバイザーとして『MS IGLOO』に関わられているわけですが、CGのスーパーバイザーとはどんな仕事をされるんですか?
小畑正好氏小畑:CGの制作作業は、コンピュータを使ってモデリングした人物やメカを動かしたり、合成するための存在しない背景を作って、監督の思うイメージに近づけることが中心になっています。とは言っても、それを実現するには専門的な知識や技術が非常に多いんですよ。もちろん、予算が膨大でスケジュールにも余裕があれば、「最高の体制でやればいい」ということになりますが、現実にはなかなかそうはいかなくて、限られた予算とスケジュールの中で、クオリティを落とさずに、きちんとしたものを作るにはどうしたらいいかということになるわけですね。そこで、多少のCG制作の現場を経験してきて、実際にCGを作る手間や時間、さらに予算がこれくらいあれば、どの程度のものが完成させられるかを知っていれば、ディレクションをやった経験があると、“この予算で、この制作期間なら、これくらいのCGを完成させられる”というさじ加減が判るわけです。そういった、CG創成期に自分の手でCGを作ってきた人たちが、プロデューサーとディレクター、デザイナーの間に立って、予算やスケジュール、作品のテイストなどを踏まえた上で、「こうしたら、全てが丸く収まるんじゃないか」という方法論を提案して、それに沿った進行管理やスタッフへの助言を行っていく人がスーパーバイザーと言われているんですね。

CGで見せるキャラクターのために提案された新システム

――なるほど。CGを作る上で発言権を持ったアドバイザー的な存在ということなんですね。では、実際に『MS IGLOO』ではどのような作業をされたのですか?
小畑:主なところでは、CGでキャラクターを作るためのシステムを提案と実現が大きい仕事ですよね。サンライズさんとは、プレイステーション用の『PANZER FRONT bis』(01年発売)というゲームのムービー制作で最初に仕事をさせてもらったんですが、『MS IGLOO』はその時のCG製作の経験をもとにキャラクター造形をしているんですよ。『PANZER FRONT bis』ムービーでは、アニメのキャラクターを人間っぽく作って、さらにCGとしてリアルに仕上げていくということをしたのですが、ものすごく苦労しまして。キャラクターの絵を描いて、それをもとに粘土で顔を作り、それをスキャンして完成させるという手法でやっていたのですが、思いのほか時間がかかったのと、キャラクターデザインからCGとして仕上がる間に、粘土の造型師の解釈、そしてそれをCGにする人の解釈が入ってしまい、デザイナーのイメージとCGとしての完成形のイメージが合わないということになってしまったんです。そうした行程の間を埋めたいというのが『MS IGLOO』ではあったんですね。
――実在の人物をスキャンして、CGのキャラクターを作るという方法ですね。
小畑正好氏小畑:そうです。粘土で作るよりも、本当に生きている人間から作るほうがリアルですからね。そこで、キャラクターデザインを担当された出渕さんにモデルのオーディションをやってもらったらどうかと思ったんです。まず、キャラクターのイメージをラフで描いてもらって、その雰囲気に近いモデルさんを一通り集めてオーディションをする。そのオーディションも顔だけだったり、体だけだったりとイメージに近いパーツを持った人を選ぶものなんです。それらを人間の体をスキャニングできる機械で立体データのベースとして取り込んで、デザインされたイメージに近づけるようにパーツを組み合わせてキャラクターを作り上げていくわけです。もちろん、状況に応じて髪や目の色を変えたり、鼻の大きさや高さを変化させたりすることもします。こうした作業をキャラクターデザイナーと一緒にやっていくことで、デザイン画に似せるといよりも、キャラクター像を固めていったという感じですね。
――そういう意味では、かなり複合的なキャラクター作りがされているわけですね。
小畑:これくらい、ハイブリッドにキャラクターを作っているものは少ないと思いますね。アニメでは、作画された絵に声優さんが声を当てるということで、キャラクターが生まれますが、それ以上にいろんな要素が入っていますから。顔や体のモデルになった方のパーツをもとにモデリングデータが作られて、モーションキャプチャーで役者さんが演技をして、さらに声優さんが声を当てることで魂が入ったキャラクターが生まれるわけです。
――こうしたCG制作の効率化やクオリティアップのためのシステムの提案以外には、どのようなことをやられているんですか?
小畑:まさに名前のとおり、技術的な面や物理的な面でのスタッフに対するスーパーバイズですね。CGというのは、人間がひとつずつ手で作っていくわけですよ。もちろん、ベースになるプログラムがありはしますが、細かいパラメーター設定から、すべては人間が作り込んでいくので、CGを作る人はいろんなことを知らなければいけないんです。例えば映画は、ものすごい人数で制作していて、その中には撮影担当から、照明や美術、音響といった感じで、様々な撮影のエキスパートの方が分担して作業しているんですね。でもCGの場合は、一人で机の上でカットをひとつ作るわけですよ。実写の場合は、照明さんは美術の仕事をよく知らなくても作業に支障がないんですが、CGの場合は美術、照明に加えてカメラのことまでも知らなければならない。とは言っても、CG制作のスキルはキャリアよって違うわけですから、ライティングやレンズといった技術的な見せ方の部分や、モデリングデータの汚しや塗装のリアル感、さらにはリアルな動きに関するバーニアの向きなどの説得力という部分でも、どのように処理すべきか、仕上がったものを見て技術的な面と物理的な面でアドバイスするわけです。そうしたことを一声かけてあげて、そこから各スタッフが自分でCGの表現を探求していってあげられるようなスーパーバイズをしているという感じですね。
――そういう意味では、雑学的な部分が豊富でないとならないわけですね。
小畑:そうですね。今の子たちは、プラモデルを改造したり作り込んだりしている人や、一眼レフカメラを使ってマニュアルモードで写真を撮ったりした経験がある人も少ないわけで。僕の場合は、実際の仕事で実写や特撮の現場を踏むことで照明に関しての知識もあるし、プラモデルを作っていたから、汚しのテクニックや表現方法も知っている。さらに、玩具やプラモを使って写真や自主映画を撮影したりしていたので、レンズに関しても説明ができる。そうした総合的な経験値も積んだ上で、スーパーバイザーという仕事をしているんです。

玩具&ロボット大好き!
日本屈指のCGクリエイターの仕事の源はここにある! 

――小畑さんの経歴を見ると、NHKで放送されている大河ドラマのオープニングや、歴史、教養番組内のCGを担当されているということなので、そちらがメインかと思っていたのですが、そういった作品とアニメ作品ではどちらが得意分野になるんですか?
小畑:もちろん、メカやロボットが出るアニメ関連の作品ですよ(笑)。僕はオモチャが大好きで、自宅の一部屋がオモチャで埋まっているほどですから。それこそ、幼児向けのオモチャからいわゆるホビーと言われるものまで、数え切れないほどありまして。中でもメカ物、特にロボット物が大好きなので(笑)。もともと、サンライズさんの制作した『勇者ライディーン』や『機動戦士ガンダム』を見て育ってきつつ、『スター・ウォーズ』の洗礼を受けながら、自分も8mmカメラ片手に「ドビュン」とか「ビシュン」とかSE代わりに奇声を発しながらオモチャを撮っていたような年代なんです。そういう意味では、今やっている仕事は玩具も触れて、アニメにも関われて、さらにメカ物のジャンルをやらせてもらっているので、単純に趣味的な側面からすごく楽しんでいますよ。
――自分のお気に入りの玩具を動かして、どう見たり、どう飛ばしたりしたらカッコイイかという感覚の延長という部分もあるわけですね。
小畑:そうそう(笑)。玩具が先か、映像が先かは判らないですけど。昔から、玩具を見るときにどうして玩具らしく見えてしまうのかということを疑問に思っていていたんですよ。8mmフィルムで玩具を撮っていたときには、どうしたら玩具らしく映らないかということを考えていて、実際に撮り方をいろいろと研究してみたりしましたし。色んなレンズを試して、被写界深度や焦点距離をどうすればいいかということを、玩具をより本物らしく見せるということから学んだし、実際にモノに触って、見比べてということで玩具からたくさん学んだことがCG製作には役立っていますね。
――たくさん持っている玩具は、いわゆるコレクションなんですか?
小畑:コレクターの人は箱を開けないで飾っている人も多いですけど、僕の場合は全部箱から出して、実際に触ったり遊んだりしています。お店で買って家に着く頃には箱から出してしまっていることも多々。とにかく、そうやってモノを自分で触ったりするのが好きで(笑)。仕事を終えて、家に着くと11時とか12時なんですが、そこからお酒を飲みながら撮りためているビデオを見たりしながら2時間くらい過ごして、それが済んだら自分が見たいと思っている好きなアニメや特撮を1本見る。そうなると、朝の4時とかになっちゃうんだけど、お気に入りの作品を見ると今度はそれに関連した玩具が触りたくなるわけで(笑)。今は、低価格で自分の部屋をプラネタリウムにできるものがあるのですが、それを部屋で点灯させて宇宙空間を作って、玩具のカッコイイ姿を朝の4時頃に堪能しちゃったりするわけです。そこでは自分は、宇宙艦隊の提督だったりモビルスーツのパイロットだったりで。(笑)。
――それが、CGで立体を格好良く見せるヒントになるわけですね。
小畑:純粋に玩具を触ることを楽しんでいるんですが、結果的には仕事に結びついている感じですね(笑)。
――玩具では、どんなジャンルが好きなんですか?
小畑:やっぱり、変形合体するようなロボットものが好きですね。1個でいろいろと楽しめるのでお得感も高いですし。あと、超合金みたいなロボットがずらっと並んでいる塊感みたいなのも好きなので、メインはロボット系になっていますね。ちなみに、僕は車も好きなんです。で、今乗っている車がカウンタック(笑)。
――あの有名なスーパーカーのですよね? ちなみに色は?
小畑:白です。白いカウンタックって、なんかSF映画に出てくる宇宙船みたいなイメージに近いんですよね。そこに惹かれて乗っています。純粋に車が好きというよりは、「スター・ウォーズ」の「スノースピーダー」なんかのコックピットに座っているような感じが楽しくて(笑)。もちろん、BGMは、アニメ関連や特撮映画音楽で固めていて当然「MS IGLOO」のサウンドトラックなんかも搭載しながら、他車を追い越す時なんかは「うっジム蟲め〜」なんて言ったりして。3倍速くなった気分も味わいながら人型にも変形できるんだなんて思いつつ運転していますよ。
――まさに、好きを仕事にしている感じが素晴らしいですね。そうしたメカモノ玩具好きとして、『MS IGLOO』におけるメカ表現などに関してもかなり意見を出されているんですか?
小畑:『MS IGLOO』は、『マシンロボレスキュー』や『クラッシュギアTURBO』をやられているスタッフが中心となっていて、メカに関するノウハウはギッシリ詰まっていますので、大きな意見というよりは、どちらかと言えば細かい部分でのスーパーバイズが多いですね。兵器っぽいつや消し塗装の表現とか、表面処理をどのようにすればリアルかという部分でアドバイスをしたりしています。あとは、メカ的に理にかなっているかのチェックですね。先ほど言ったバーニアの方向などの他にも、関節の処理を格好良く画面に出すためにどの角度からモデリングデータを見せるといいかとか。その程度の助言ですね。
――そういう意味では、『MS IGLOO』ではやはりキャラクターの表現のほうが苦労されたわけですね。
小畑:そうですね。でも、メカは作る物量が多いですから、細かい指示も自然と多くなります。と真面目なことは言いつつも、やっぱりメカが好きなので「モノアイのレンズは、1枚じゃなくて3枚くらい重なって見える方がいいんじゃない?」というような、自分の好みの表現的な話をしてしまうことも多いんですが(笑)。今までのCGと言えば脇役を作ることが多かったわけですよ。主人公は俳優や女優の方々で、それを引き立てるのがCGの役目だったのが、今回はキャラクターに関してもメカに関してもCGが主役ですからね。それも、短編映像ではなく、長編のシリーズものですから、やっと我々にスポットが当たるわけじゃないですか。そういう意味では、好きなメカモノを主人公として作らせてもらっているので、それこそ喜々として仕事をしている感じですよね。
――好きな玩具の延長という部分も含めて、かなり楽しんで仕事をされている感じですね。
小畑:そうですね。スタッフに関してもそういう気分でやってほしいと思っているので。やっぱり、作業をしているとリテイクが何度も出るし、そうなってくると表情も険しくなってくるスタッフもいるわけで、そういう状況ではボケたり、笑いをとれるようなコメントをしたりもしますね。必死にスーパーバイズするときもあれば、笑って茶化すこともあって。それも僕のやり方ですから。
――『MS IGLOO』の前シリーズはDVDでのレンタルがスタートしますし、新シリーズもOVAとしてDVDでリリースされます。そうなると、じっくりと見返す機会も多くなると思うので、まとめて見直すにあたってCG的な見所などを教えてください。
小畑:最初から順番に見直してもらうと、表現の方法や気を使っているとことが増えているのが判ると思います。前シリーズの第1話は、モデリングを作り上げる、モーションキャプチャーに慣れる、モーションキャプチャーに合わせて表情を作るという新たな試みの部分で必死でした。続く第2話では、第1話との同時公開ということでスケジュール的に押していて、とにかく量を作るのに必死だったんです。そういう意味で、第1話と2話の完成した印象は変わりませんが、第3話からはライティングに気を使う余裕が出てきたので、かなり印象が変わっているんです。宇宙空間の暗闇も単なる暗闇にならないように深みを増すようなライティングになっていますから。そして、第4話にあたる新シリーズの第1話では、レンズを使った深みをさらに考えているんです。そうした、ライティングとレンズを駆使することで、どこまでもクリアに見えるはずの宇宙に空間感を出すようにしているんです。そのあたりを見比べてみると楽しいかもしれないですね。そして、第5話では、第4話で導入して、ちょっと実験的な使い方をしている空間感を見せる手法を、より自然な形でかつ劇的に見せるように鋭意製作中です。そして、最終話である6話は、まさに魔女の鍋の様なCG表現の集大成になるはずですので、期待して待って欲しいですね。


(C)SOTSU AGENCY / SUNRISE