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打ち上げレポート



出渕裕氏
 『MS IGLOO』スタッフインタビュー第6回は、出渕裕氏にご登場いただいた。ご存じの通り出渕氏はデザインワークスとしてだけではなく、シリーズ制作全体を通してスーパーバイザーも務めるキーパーソンである。しかし、今回は第3話に登場するモビルスーツ・ヅダのデザインを担当したメカニックデザイナーとして話を伺ってみることとした。1年戦争の表舞台に立たなかったモビルスーツのデザインは、果たしてどのように生まれたのだろうか。また、スーパーバイザーを兼ねつつのメカニックデザインの作業とはどういったものなのだろうか。

1年戦争に新たなモビルスーツを登場させる苦労

――1年戦争で活躍した完全オリジナルデザインのモビルスーツは、実は大河原邦男さんと出渕さんしか描かれていないんですよね。
出渕:言われてみると、1年戦争で登場したモビルスーツのデザインは、ケンプファー以外はリニューアルやバリエーションが描かれている感じだから……、オリジナルは大河原さん以外では僕だけしかやってなかったんだ。意外だな〜。今まで気が付かなかった(笑)。

――今回デザインされたヅダですが、1年戦争初期に開発された機体ということで、どのような経緯で今回のデザインが形作られていったんですか?
出渕:『MS IGLOO』は、作品として実験兵器モノの側面が強いですよね。作品タイトルに“MS”って付いているし、どちらにしてもモビルスーツは出さざるを得ないだろうという話は、企画当初からありました。
 では、「どのタイミングで登場させるか」というのは最初から考えていたわけではなく、1話が大砲、2話が戦車と来たので、次はモビルスーツかなということになりまして。ただし、やっぱり1年戦争に新規のモビルスーツは出し難いんですよ。新しい量産型モビルスーツを出すと、その時点でウソになっちゃいますから。でも、作品のコンセプトである実験機や試験機としてなら、登場させられる可能性はあるだろうと。でも、単に新型機を考えると、例えばドムと競合した機体があったとか、ギャンとゲルググが次期量産型として争った時にもう1機種存在した……なんていうのは、予定調和でつまらないですよね。
 そこで発想の大元になったのが、第二次世界大戦のドイツで実際にあったメッサーシュミット社のBf109とハインケル社のHe100との戦闘機の軍への制式化競争の話なんです。ハインケル社がナチ嫌いで、メッサーシュミット社がナチスに取り入っていて、その結果、最終的にBf109が制式採用される。でも、性能的にはHe100の方が性能が上だったという話もあると。ガンダムは、戦記ものや開発史の側面もあって、そうした部分を今回クローズアップしていくスタイルを採っているんです。だから、『MS IGLOO』という作品に説得力を持たせられるなら、こうしたシチュエーションも積極的に取り入れていこうと思ったわけです。

――-自身が納得して、新しいモビルスーツを描くためのベースがそこにあるわけですね。
出渕:そういった納得できる部分がないと、イメージが膨らまなくてデザイン的な作業になかなか入れないんですよね。その一方で、シナリオを作っていく段階で「高い機動性を持つ」とか「高出力なエンジンを積んでいる」という要素を入れて行くことになったんです。最初は、2本のノズルを付けるとか、プロペラントタンクのような長いパーツを付けてみようかなどと試行錯誤していたんですが、どれもありがちなのでやめました。そこに今西監督から「高出力の単発エンジンはどうか」という提案があって、大型の単発ノズルの基部がフレキシブルに動くようなギミックを取り入れる方向で徐々に、イメージが固まっていった感じですね。

――背部デザインは、一見すると無茶な形のバックパックに見えながら整合性があって、確かに新しくて興味深い形になっていますね。
出渕:やはり、エンジンとして「ここがポイント」という部分は目立たせたいので、色もそこだけ銅のような色にしています。基本的に、大出力のエンジンをつけているので放熱フィンを機体各部に付けました。逆にテールスタビライザー的なものを付けると『Zガンダム』時代のモビルスーツに意匠が近くなってしまうので避けました。熱を外に排出するのに、スリット状のフィンやユニットが各部にはめ込まれている機体にすることで、他のMSと差別化できますし、同時に古臭さを出せ、それがデザイン上の特色にもなってくれたと思います。主役メカだから、格好良くしなくちゃいけないんだけど、ザクよりも新しく、あまり格好良すぎるデザインになってもいけないとはいっても、格好悪くてもいけない。旧式っぽく見えつつ、格好良くという落とし処ですね。何とか両立できたんじゃないかと思います。


初めて映像作品に登場したMSメーカー“ツィマット社”

――今回、初めてオフィシャルの作品の中で、ジオニック社やツィマット社という兵器開発メーカーの名前が使われていますね。
出渕:これらの兵器開発メーカーの名前は、スタジオぬえのスタッフがかかわった『ガンダムセンチュリー』というムック本が初出なんです。いままで、ガンダムシリーズの劇中では、これらのMSメーカーの名が公に出てくることはなかったのですが、ジオニックやツィマットって設定としてはもう、ほぼオフィシャル化していますよね。そういったあるもので上手く使えそうなものは、最大限使っていくようにしています。

――ツィマット社といえば、ギャンやドムを作ったメーカーということになっていますが、そういった流れは意識しましたか? 見た目的には、ギャンに近いデザインラインにも見えるのですが。
出渕:デザインを考える時に、ちょっと意識はしましたが口には出していませんでした。それは何故か? 今西監督はギャンが嫌いだからです(笑)。ただ、監督の方にも高機動=スリムなシルエットの機体というイメージがあったので、ドム的なデザインにはならないだろう、と。ただ、作品内にヅダが4機出てくるので、サービス精神としてバリエーションを作りたくなって。”ツィマット社のモノアイスリットは、十字でしょう!”って声もあったので、指揮官機と予備機は十字状にスリットが入った頭部デザインにしたら、存外うまくいきましたね。

――今回は、「CGでモデリングされるモビルスーツをデザインする」ということが前提としてあったと思うのですが、作業的にはアニメ作画用のデザインに比べてどう違うのですか?
出渕:普段ならば3面図を描いたりはしないんですが、やはり精度の高いモデリングをしてもらうために、CGオペレーターの人が参考にしやすい3面図を描いたりしていますね。普通のアニメーションだと、作画が上手い人が描けば良くなるし、下手な人が描けば格好悪くもなる。だけどCGの場合、きちんとしたものをひとつ作ればそれを動かせるわけですから、その「きちんとしたものを作る」ことに集中してもらい易いように考えて、設定画をおこすようにはしています。それから、CGだからこそ気をつけたのは、装甲の厚みの表現ですね。小さい絵だとどうしても、厚みなどは判断しにくいので、アップ用の設定画で「これくらい奥行きと厚みがある」という指示はしています。そうした量感に気をつけるようにしたつもりです。

――今西監督からデザイン部分でのオーダー的なものは何かありましたか?
出渕:監督の考えや好みは判っているから、特にはなかったですよ。よく一緒に飲みに行っているからかな(笑)。でも、お互いに共通認識を持てるということは重要なんですよ。機体の色は、航空自衛隊の機体色(迷彩)のような青にしようとか、細身の機動性の高い機体であるとか、武器はザクのものと共通でいいだろう……といったところで、今西監督の好みを判ったうえでこちらも提示しているので、リテイクもほとんどなく、作業はスムーズに進みましたね。

――では、最後にスーパーバイザーとして、今後のヅダの活躍について教えてください。
出渕:ヅダは、第3話からの登場ですが、今後はレギュラー的な立場になります。ただ、今後も新しい実験兵器が登場すると、それがメインで描かれるので、どうしてもサブ的な扱いになりそうですが、モビルスーツに対するユーザーの期待値はヅダにかかってくるのでどの程度活躍させるかが課題といったところですかね。

――『MS IGLOO』には、スーパーバイザーとして参加しながら、メカデザインも手掛けた形ですが、より深く作品に関われるという意味では理想的な作業ができるんじゃないかと思えるのですが。
出渕:僕自身、こういう環境で仕事をさせてもらえていることには、すごく感謝しています。昔から、メカデザインという立場から逸脱しがちなスタイルで仕事をしてきたのが影響しているんでしょうね。やっぱり、仕事していて楽しいと思えるのが重要ですからね。そういう意味ではすごく恵まれていると思いますね。



(C)SOTSU AGENCY / SUNRISE