――まず、「スーパーバイザー」の役割と、ご自身がそれに任じられた経緯からお話しいただけますか? |
出渕:スーパーバイザーといってもいろいろあって、スタッフとして名前を貸しているだけの人もいれば、様々なことを端から端までチェックする人もいます。ですから肩書きとしてはすごくファジーなんだけど、裏を返すと便利なんですよ。「困った時にはスーパーバイザー」じゃないですけど、他のスタッフと重複したような仕事をしていた場合だとか、いろいろやりすぎて肩書きをつけにくい場合だとか。その点、僕は一応監督の経験もあるし、今西さんと同じで微妙にプロデューサー気質も入ってますから、ビジュアルアイデアや適材適所の人の起用法とかで、今西監督にとって便利そうだったんだと思うんですよね。全体の潤滑剤として、上手く流れを作っていけるという部分も含めてね。 |
――まさにスーパーなバイザーというワケですね。ところで具体的な作業工程には、どこからどこまで関わるのでしょう? |
出渕:最初に企画を煮詰めて、次はデザイナーやスタッフ集め。その後の打ち合わせでは世界観やアプローチの仕方などを固めて、脚本と絵コンテの打ち合わせとチェックも行います。あとはアフレコ、ダビングなどの音響関係。編集は立ち会ってないんで、そのぐらいですか。
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――「そのぐらい」って、それほとんどぜんぶじゃないですか?(笑) |
出渕:まあ確かに、「ココのSE(※効果音)、もうちょっと上げたほうがイイんじゃないですか?」とかは、普通スーパーバイザーは言わないでしょうね(笑)。ただもちろん、それはあくまで監督への意見具申という形です。それに、僕が最後のほうでちょこっと出てきて「こりゃイカン!」って切れちゃっても困るじゃないですか(笑)。逆に言えばそうならないように、最初の段階からなるべく参加するようにしているわけです。
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――つまり、個々の作業も「監修」とは少し違うと? |
出渕:できたものを監修すると言うよりも、世界の雰囲気を固めていく仕事ですね。例えば今回は、「デザイナー頭」のような形でメカも軍服も宇宙服も担当していますし、他のデザイナーの選任やある種のチェック機能、監督とのイメージの擦り合せも手伝っています。要するに、今西監督の作品を「勝たせる」ための相談役、作戦参謀みたいなものですね。実際、こういう企画でジオンの話となったら、「俺がディレクターでも俺にオファーするな」って思うもん(笑)。
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(ここで突然、インタビュー現場に今西監督登場) |
今西:あれ? 出渕さん、今日インタビューだっけ? また居酒屋で盛り上がった話してるの?(笑) |
――そういえば過去のインタビューでも「出渕さんと言えば居酒屋で打ち合わせ」みたいな証言は多いですね。 |
出渕:いや、それは誤解を受けるとアレなんだけど(笑)、決してそれがすべてじゃないですよ! ただまあ、打ち合わせが終わったあと、もっとフランクに話したりするなかでアイデアが出たりもするじゃないですか。今西さんとはお互いの考え方もわかっているから、「こういうのどうですか」っていうアプローチもスムーズにいくし。 |
今西:なんせ「やしん坊」(※サンライズ近く、東京杉並区、上井草の居酒屋さん)で酒のメニューを完全制覇したのに、いっぺんも自分のお金で飲んでないでしょ?(笑)。 |
出渕:それじゃまるで「打ち合わせと称して人の金で酒飲んでるだけの人」みたいじゃないですか! それとも「たまには自分の金で飲め」ってコト?(笑) |
今西:いや、そういう意味じゃないけどさ。それぐらい、あらゆる状況で相談に乗ってもらってたというね。 |
出渕:今西さんだって、僕が打ち合わせに来ると「しめた、今日は飲める日だ!」っていう顔してたじゃないですか!(笑)むしろ僕は、普段今西さんが「あんまり飲んでない」って言ってたのが意外でしたよ。確かに最近は、飲まない人が増えてはいますけど。 |
今西:「会社ではちゃんと仕事をして、そこを出たら私生活」みたいな人は増えたよね。仕事なんだけど仕事場ばっかりでの仕事じゃない、そう言う感覚がいま、なくなりつつあるのかもしれないですね。お酒の席での話も、物づくりのヒントになったりするんだけど。 |
――では、おふたりの居酒屋での会話にも、そういうヒントがたくさんあったわけですか? ましてファンのあいだでは、出渕さんのマニアックな会話は「そりゃもうハンパないッスよ!」っていうのが、一種の伝説になっているようですし(笑)。 |
出渕:いや、それも違うでしょ。なんかおかしいよ!(笑)戦車だったら山根(公利)君のほうが詳しいだろうしさ。 |
今西:出渕さんの場合は、例えば戦車にしても、その背景にある歴史や逸話が好きなんであって、戦車そのものを偏愛してるわけじゃないんだよね。そのメカに「どんな人間がどんな気持ちで乗ったか」とか、そういうエピソードのほうだよね。 |
出渕:そういう意味では僕、やっぱり文系なんですよ。理系の人だとエンジン出力とかのデータ方面に興味が行っちゃうんだけど、僕はバックボーンとかに興味があるほうだから。そのぶん戦争映画や松本零士の戦場漫画シリーズを観ても、盛り上がるドラマ構成とか効果的なキャラクター配置に目が行くわけで、おかげで今西さんとも「ホラ、あの作品のあんなカンジですよ!」っていう共通言語が持ちやすいのかもしれない。それにデザイナーって、世界を作る一端を担ってるわけですよ。完成されたデザインは喋らないけど、それが置かれ使われることで世界を構築し、表現していくひとつの力にはなっている。そうなると当然「こういう風に使って欲しいな」とか「こういうキャラに乗って欲しいな」とか、「こういう芝居して欲しいな」とか、そういう欲求から派生して、だんだんドラマにも興味がいったりするし。事実いま、デザイナーをやりつつ同時に監督やってる人も多いでしょ? そういう人の意見具申を面白がってガジェットとして生かしてくれる人とは、やっぱり仕事もしやすいですよね。 |
――なるほど。では最後に、スーパーバイザーとしての出渕さんから、『黙示録0079』の見どころをお願いします。 |
出渕:まず、1話は個人的にもすごく良く出来ていると思います。映像の密度は『一年戦争秘録』より格段に上がっていますし、クライマックスのスペクタクルは今までで一番燃えましたね! ドラマとしても、正統派戦場漫画的な『IGLOO』のスタイルは踏襲してますし。だいたい、ズゴック使おうって提案したの僕だし(笑)。海で活躍することなく宇宙に出てしまったズゴックと宇宙なのに海兵っていう組み合わせのドラマは、観応えがありますよ。
メカに関しては、1話にはガウ攻撃空母も出ますし、カトキハジメ君がリファインした連邦軍の超有名メカも登場します。同じく2話、3話には、今までガンダム世界に登場したメカで、まだ『IGLOO』に登場していなかったものもCGで作り起していますから、楽しみにしていてください! |
追記:インタビュー収録後の談話
出渕:あとね、こないだ庵野秀明からメールが来て、なにかと思ったら「『IGLOO』イイッ!」って、なんかすごく盛り上がってて(笑)。どうやら観てくれたらしいんですよ。そのあと会った時も、「愛を感じる」とか「この手があったか!」とか「俺は伝道師になる!」とか言ってくれて。なんかガイナックスさんの若手にも、布教して回ってるらしく、ありがたいことです。
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