――どのような流れで『MS IGLOO』に関わることになったんですか? |
大野木:出渕さんに誘われて……というか、「どうせ、アイツはヒマだからやらせよう」といった感じだと思いますよ(笑)。仕事を受ける以前に彼と飲んでいたら、「今、こんな企画をやっているんだ」と『MS
IGLOO』の話を聞かされていて、「面白そうじゃん」と言ったりもしましたけどね。 |
――大野木さんと言えば、ミリタリーと戦場の男臭さというふたつのテイストを持った作品を手掛けることが多いですが、そんな流れで誘われたといったところですかね。仕事を受ける際には、どのような説明がされたんですか? |
大野木:まあ、元々ミリタリー好きで戦車好きですからね(笑)。今西監督から話を伺った時には、“ジオンが作るバカ兵器”というお題目がメインにあって、それを実験する部隊の話だと聞いてかなりやる気になりました。そんな経緯で第2話の脚本依頼を受けて、プロットを読んだらメインとなる戦車が本当に“バカ兵器”だったので、どうしようと思いましたね。コンセプトとしては、“地上戦艦撃破用対艦戦車として開発された兵器の実験に、たまたま鹵獲されたザクで構成された連邦軍が出会って戦い、悲劇の最後を迎える話”だと。この話を聞いて、「今西監督も好きだな〜」って思いましたね(笑)。
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――その段階でヒルドルブのデザインは上がっていたんですか? |
大野木:まだ上がってなかったですね。プロットにはとにかく、機動性が高くてどでかい戦車と書いてあったんですが、全然イメージできない。地上で連邦軍のビッグトレーなんかの地上戦艦を撃破するのが目的の戦車という設定を聞いていたんですが、ラフを見たときには驚きましたからね。なにせ、全長35メートル、主砲が大戦中の戦艦並みですから。さらに、そんなバカデカイ自走砲が、物語後半に戦車になりますって言われてもねぇ(笑)。 |
――物語で重要になるヒルドルブのギミックなどについては、シナリオ上で書いたものが、デザインに反映されるような流れだったんでしょうか? |
大野木:脚本とメカデザインが同時進行だったので、今西監督がどんな目的で、どんな活躍をするメカを欲しがっているのかを知るために、デザインを担当したカトキさんと同席した打ち合わせをしたんです。そこで、いろいろと意見を出し合って決めていった感じですね。スモークディスチャージャーは、今西監督が付けるように言っていたし、カトキさんはパワーショベルを使って自分で塹壕を掘って隠れるというアイデアを出して下さいました。そうして、だんだんどんなにバカな兵器かイメージできるようになっていったわけですね(笑)。 |
――ソンネンとツァリアーノといった第2話にのみ登場するキャラクターの性格は、大野木さんが考えられたんですか? |
大野木:キャラクターの性格付けに関しては、僕の方がアイデアを出して、それを取り込んで最終的に出来上がったという感じですね。 |
――ソンネンの薬がかなり気になりますが……。あれは、何の薬ですか? |
大野木:さあ、何の病気なんでしょう。それは、僕にも判りません(笑)。ソンネンに薬を飲ませるというのは、僕が出したアイデアです。何か興奮するとあんな症状が出て、薬を飲んで「ドロップ喰うか?」みたいなことをやりたいなと。ソンネンは、そもそも戦車の教導団の教官で、モビルスーツへの転科適正テストに落ちて……というのは、今西監督が考えた設定で。そういう設定の負け犬だったら、薬のひとつでも飲んでいていいかなと思ったわけですね。これは、脚本を書く上でのちょっと技術的な話になるんですが、短編というわずかな時間の中で、キャラクターを印象づけるにはこうした小物を出すのが効果的なんですよ。まあ、はっきり言えるのは、そんなにヤバイ薬じゃないってことですね(笑)。 |
――もうひとり、敵として活躍するツァリアーノというキャラもかなり個性的ですよね。どのようにあの憎々しげなキャラクターが出来上がっていったんですか? |
大野木:実は、僕が脚本を書いている段階でツァリアーノの顔の設定はまだなかったんですよ。というか、ツァリアーノに関しては、外観的な詳しい指示はなかったし、連邦軍の軍人では、彼の顔だけが出るというのも知らなかった。だから、あんな凶悪な顔のおじさんだとは思ってもいませんでした(笑)。オーダーとしては、優秀な指揮官で現場叩き上げのキャラクター。でもって鹵獲兵器を偽装として使うとなれば、モデルはスコルツェニー(オットー・スコルツェニー:顔に大きな刀傷がある、ナチスドイツの親衛隊大佐。”ヨーロッパで最も危険な男”とも言われた軍人)かな? まあ、そこらへんはご自由にご想像ください。 |
――物語の中でソンネンとツァリアーノは、お互いの顔は見えないけどライバル的な描き方がされていますよね。これも、かなり狙ったものだったんですか? |
大野木:このふたりは、敵同士ではあるんですが、どこか通じるところがあると思うんですよ。時代について行けなかった古いタイプの軍人と、表だって活躍できない鹵獲部隊の隊長という汚れ役ですからね。ある意味、両方とも負け犬ですから。そうした、全体的に漂う第二次大戦っぽい雰囲気、他のアニメでは描けないような地味な部分は書いていて楽しかったです。 |
――逆に、ドラマを展開させるところで苦労された点はありましたか? |
大野木:マイというキャラクターの絡ませ方には苦労しましたね。アニメの企画として、実験部隊に毎度新しい武器が来て、それを運用するといったら、普通なら主人公がテストパイロットとしてその武器に乗るんですよ。でも、IGLOOの主人公ときたら見ているだけなんですから(笑)。「見ている立場」という主人公は確かに面白いんですけど、描きづらいなとは思いましたね。もうひとつ苦労したのは、CG作品だからこその制約ですね。例えば、ヨーツンヘイム内の他の部屋で芝居をさせたいなと思っても、新しく部屋をモデリングしなければならないので、ブリッジか格納庫でキャラクター同士のやりとりを描かなければならないとか、“戦車戦と言えば市街地で”と提案しても、建物や破片のひとつまで新たにCGで作らなければならない。だから、そうした制作側の負担を減らすという脚本もある意味では苦労しましたね。 |
――脚本を書く上で、戦車好きとして、こだわったところはどこですか? |
大野木:やっぱり細かい描写ですよ。戦車はキャタピラで動いているわけですから、例えばザクの腕を巻き込むところなんかは、大戦中にそうしたトラブルがあったという話から思いついたものですし。初弾を撃つと砲身が熱でわずかに歪み、次弾の着弾がずれるってのも戦車好きのこだわりですよね。 |
――あれはカトキさんのこだわりだとお聞きしましたが? |
大野木:え? あ? あはははははは。ブレインストーミングで出されたアイデアなんてね、だれが出したのか忘れてしまいますよ。ははは。 |
――まあ、そういうことにしておきましょう(笑)。そういったこだわりのひとつが、ヒルドルブの主砲の呼び名ですよね。 |
大野木:30サンチですからね(笑)。サンチというのは、日本海軍が第二次大戦中に使っていた言い方で、普通にセンチと同じ意味なんですよね。でも、コレくらい太い砲ならば、やはり30サンチと言いたい(笑)。このあたりは、今西監督と出渕さんと3人で話し合って決めましたからね。誤植じゃないですよ(笑)。 |
――判る人には、この“30サンチ”って表記で、『MS
IGLOO』がどんな作品であるか判りますからね。 |
大野木:これぞ、まさに男のロマンですよ(笑)。 |
――いろいろとアイデアをだされて、さらに苦労された末に完成した作品ですが、実際に映像を見られてどこが印象に残りましたか? |
大野木:CGならではの映像表現として、煙なんかの効果が良かったですね。スモークディスチャージャーの煙なんかは、手書きでは出せない、重なって広がる感じが出ていたし、ザクのフットミサイルが尾を引くところとか映像表現として気持ちよかったね。あとは、キャラクターとしてソンネンがかなり気に入っているんです。なかなか味があるキャラじゃないですか。モビルスーツがメインの時代に、こんな馬鹿な戦車で「いずれこれが量産されれば!」なんてことを言っているアホなヤツですから(笑)。かなり、妄想は入っていますけど、彼は本気ですからね。そう信じて負け犬が頑張るのも男のロマンですよ。その雰囲気が良くでていました。まあ、ツァリアーノだって、「我が軍は、こうして戦果を挙げています」とは言えない作戦をやっている、裏方の地味な軍人ですから。この段階で負け犬度もアップしていますよね。 |
――そういう地味なところが、やっぱりいいんですよね。 |
大野木:普通のアニメなら、仮面の男のひとつでも出そうというところで登場するのが技術屋の主人公を初め、民間人の艦長、実験部隊に回されてきた女性士官。こうした、とにかく地味なところが僕にはビビッときましたし、楽しんで仕事ができるポイントでした。僕は、普通の戦車も好きなんですが、試作戦車も好きなんですよ。試作戦車って、どう考えてもバカな戦車を思いつく設計者がいて、それを形にしちゃう技術者がいて、さらにテストする技術者までいるわけでしょ。それぞれみんな、そんなバカみたいな兵器に血道を上げて頑張るわけじゃないですか。そういところがすごく好きなんですよ。『MS
IGLOO』はそうしたテイストを色濃く反映しているのがいいですよね。 |