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Interview

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打ち上げレポート



永瀬唯氏
 『MS IGLOO』スタッフインタビュー第5回のゲストは、設定考証を担当した永瀬唯氏。ファースト・ガンダム時代から影に日向に尽力し、伝説のムック本『ガンダム・センチュリー』にも参画した、SF考証の大ベテランである。古くからマニアにとっては無上の楽しみである「設定遊び」だが、反面設定考証という役割は、デザインや画面のような「目に見える」成果を実感しにくいモノ。だがその実態は、知識と同様に「遊び心」もモノを言う仕事だったのだ!

スタッフのアイデアを形にする
「こうすればできます!」式の発送法

――まず、設定考証という役割の具体的な内容を教えてください。
永瀬:世間では「メカのスペックを決める人」ぐらいに思われてるようだし、実際最終的にはスペックも細かく書いていますが、メインとなる仕事は「こういうアイデアがあるんだけど、可能?」という相談に対するアイデア出しですね。
 例えば第1話のヨルムンガンドでは、最初に今西監督から「とにかくバカでかくて、とんでもない破壊力を持ってるんだけど、素早く動けるMSに負けちゃった秘密兵器」っていうビジョンが提示されました。まずはこの段階で「それだったら、二次大戦のドイツ軍にムカデ砲っていうのがありますよ」という提案をしたんですが、実はドイツ軍のムカデ砲は非常に効率の悪い兵器なんですよ。その考え方ををそのまま使うんじゃあんまりなんで、「じゃあ核融合の爆発か、その膨張ガスを送り込んでいるってコトにしてやれば、充分に熱いから膨張速度が弾に追いつけるな」と考えたわけです。さらに「弾はビームに見える」っていうお題をクリアするためのリクツを考えました。あとは「きっと破壊力は大きいけど1発撃つのにザクのジェネレーター何発か使い捨てになるようなモノなんだろうね」という具合に煮詰めていきました。僕の役割は、「こういうのやりたいんだけど」っていう要求に対して、科学的にいい/ダメっていうジャッジを下すことじゃなく、「こうすればできます、安心してください!」っていう考え方を提示することなんです。

――そういうアイデアを提示するには、かなりの知識が必要になりそうですね?
永瀬:確かに、例えば2話だったら戦車系のホームページとかを、ずいぶん調べましたね。半分ぐらいドイツ語だったから、ヒーヒー言いながら(笑)。でもそのおかげで、カトキさんのイメージにあった最新鋭戦車の自動装填装置などについても、まだ実現していないものまで含めて知ることができました。それは文字設定だけじゃなく、画面における形状にも反映されています。もっとも、映ったのはごく一部でしたけど(笑)。逆に言えば、画面に出ない部分のリアリティにまで、こんなにこだわった作品も珍しいですよ。スタッフがみんな濃い人たちだから(笑)、設定的に縛りに縛って、みんなでがんじがらめにしたところから、アイデアを搾り出すような作り方をしてるんです。


見せたいモノから逆算し
リアリティに「ツバをつける」役割

――では『MS IGLOO』のSF考証は、かなり正確なものと考えていいのでしょうか?
永瀬:全部が全部、リアル優先で考えられてるわけじゃありません。どんなに科学考証を積み上げても、画面の面白さにつながらなかったら意味はないですから。むしろ、科学的におかしい描写をしてる部分も沢山ありますよ。例えば第2話のヒルドルブなんか、画面上では300キロぐらいで走ってるでしょ? あれはお客さんに「いまの戦車ってこんなに機敏に動くんですよ」っていう意外感を見せたかったからなんです。とは言え、文字設定で「この戦車は300キロで動きます!」って書いちゃったら、詳しい人には「MSよりデカイのにその速度は出ないだろ!」って突っ込まれちゃいますから(笑)、そこは100キロぐらいしか出ないコトになっている。演出もそれを承知の上でやっているわけで、要は「どっちのリアリティをとるか」っていう、割り切りの問題なんですね。

――CGという表現方法も、その「どっちのリアリティをとるか」という問題に影響しましたか?
永瀬:一見あまり関係なさそうだけど、ヨーツンヘイムの迷彩パターンにはかなり影響がありますね。最初に打ち合わせで出てきたアイデアは「星空に雲が浮かんでるパターンを描いた錯視迷彩」というものでした。ところがそれを愚直にやってしまうと、CGがあまりにリアルなものだから、画面上でホントに発見できなくなっちゃう(笑)。そこで、今西監督をはじめスタッフの人たちが、ちゃんと迷彩に見えて、かつ充分画面上で目立つっていう落としどころ探したんです。そして、最終的に導き出された結果が、あの迷彩パターンだったというわけです。さらに実際の製作の段階でもモデリングの段階からくっきり見えるように作っておいたり、演出も苦労していますよ。
 実はこういったことは設定考証の仕事の領分をはずれているのですが、スーパーバイザーを含め、とてつもなく強力なスタッフがブレイン・ストーミングからつきあっていることが、すべてを決める監督に、いろんな判断の材料、作品のリアリティーを決めるためのヒントを与えられるわけで、そういった作品に参加できて非常にウレシイ。仕事をした甲斐があったなと思いますね。

――「考証」と言っても、単に知識さえあればいいというものではないんですね。
永瀬:「リアリティ」っていうのは作品によって違うわけですから、こだわるべき部分と割り切るべき部分は、解っていないとダメでしょうね。『IGLOO』の世界では、普通の4倍ある戦車がとんでもない速度で走り回っても構わないんですが、そのぶん弾丸の弾道の見え方とかにはこだわっている。それは『IGLOO』のような作品だから活きるリアリティなんであって、これが例えば『ガンダムSEED』の世界だったら、ビームが曲がっちゃうようなケレン味も充分「アリ」なんですよ。

――最近の風潮として、科学考証の合っている、間違っているといったことを過度に気にするという流れもありますが。
永瀬:どうせフィクションなんだから、ケチをつけるんじゃなく「こう考えればミノフスキー粒子もオッケー!」とか「ホワイトベースが空飛んでもオッケー!」っていう方向で考えたほうが、僕は面白いと思うんですけどね。  だって厳密なことを言えば、例えばビームなんかは目に見えない。せいぜい大気中で、暖められた空気の「痕跡」が見えるぐらいのはずなんですよ。でも、実はあのアーサー・C・クラークですら、『地球光』(ハヤカワ文庫)っていう小説で、目に見えるビームを書いている。あの人も旧き良きスペースオペラ・コミックで育った人だから、やっぱり宇宙戦でビームを見せたかったんでしょうね。「金属の蒸気を噴出させると、蒸気は自然に光を放出するから目に見えるハズだ!」っていう設定で、ガチガチなハードSFの世界に目に見えるビームの撃ち合いを放り込んでいるんです。そういう「見せたいモノを形にするために、リアリティにツバをつけておく」っていうのが、まさに設定考証という仕事なんですよ。



(C)SOTSU AGENCY / SUNRISE