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スペシャルインタビュー:庵野秀明氏
庵野秀明氏『MS IGLOO』スペシャルインタビュー、いままで以上に「スペシャル」な仰天企画がついに実現した!熱心な本HP読者諸兄は、ぜひとも思い出して頂きたい。第17回にご登場願った出渕氏が、「あの庵野秀明氏が、『IGLOO』の熱心なファンらしい」と語っていたことを。そう!なんと今回のゲストは、その庵野秀明氏ご当人なのだ!日本アニメ界の雄にして『新世紀エヴァンゲリオン』などの代表作で知られる氏の口から語られる、『IGLOO』と『ガンダム』の魅力とは?ぜひともご謹聴願いたい。

趣味性全開だから面白い
ジオン視点の物語

-------出渕さんから伺った話では、庵野さんは『IGLOO』の面白さにハマって、いろんな人に勧める「布教活動」をしていらっしゃるそうですね?
庵野:内田健二さん(サンライズ専務取締役)に送って頂いたDVDを観て、すごく面白かったので。しばらくは会う人たちに「あれはいいよ」と薦めていました。
-------具体的には、『IGLOO』のどこに一番魅力を感じられたのですか?
庵野:作り手の趣味性で凝り固まってるところです(笑)。「戦場マンガシリーズをやりたいんだ!」っていうのがストレートに出ていて、観ていて気持ちがイイですね。今西監督やブッちゃん(出渕裕氏)、カトキくん(カトキハジメ氏)をはじめ、「好きな人が好きなモノを作ってる」感じが、すごくするんですよ。アニメのガンダムの世界観を使って第二次大戦みたいな話で、しかもジオン側が主役。最終的にジオンが負けるのはみんな知ってるから、負ける側が持つ悲哀とか悲壮感を漂わせているのがまたいいですね。それを全編CGの映像で描いている。そこらにガンダムという作品の持ってる世界観の広さというか、懐の深さを感じます。いや、すごいですよ。
-------敵側が主役のスピンオフって、よくよく考えるとかなりスゴイですよね。
庵野秀明氏庵野:肝心のガンダムは1カットだけしか出さないし、しかもガンカメラからの映像で悪魔として描いてる。もう完全に「ジオンの視点でやるんだ!」っていうスタンスが明確でいいですね。連邦のパイロットとかもホントに小悪党みたいに描いてるし(笑)。こっちも観てるあいだは強制的に「ジオン万歳!」にさせられちゃって、長沢(キャディラック役)に同期して、ジムを「うじ虫!」とか、思っちゃいますね。『黙示録0079』の1話も、連邦の戦艦が落ちるシーンには、カタルシスを感じますし。リアルに考えれば、あれで連邦兵士が何千人も死んでるワケですが、それよりもひとりの海兵の死のほうがずっと重いんですね。
 このへんの感覚っていうのも、戦争映画の公式をちゃんと踏襲してますよ。「味方が死ぬのはツライけど敵が死ぬのは構わない」っていう風にしておかないと、娯楽として描くのはしんどいですから。
-------そこまでしてジオンを描いたっていうのも、今西監督や出渕さんの個性なんでしょうか?
庵野:まあ物語を作る都合上、連邦側は「いじりようがない」っていうのもあるんでしょうね。実際、ファーストではガンダムRX−78ってアムロの機体だけだという雰囲気だったと思ってたのに、もうすごい勢いでガンダムって無理矢理増えちゃってるじゃないですか。その点ジオンには、突っ込みどころがいっぱいあるって言うか、描かれてない部分が山のように残ってますからね。
 もっとも、メインスタッフの皆さんが敵側に思い入れちゃうタイプっていうのも、あるとは思いますけど。『スターウォーズ』を観ればダース・ヴェーダーや帝国軍、二次大戦なら米軍よりドイツ軍、みたいな気質が。
-------ミリタリーのマニアになればなるほど、そういう傾向は強いようにも思いますね。
庵野:そもそもガンダムを支えてる大きな柱のひとつが、そういうミリタリズムだったハズなんですよ。そこが好きな人にはたまらないと思います。男性ファンにとっての商品価値は、やはりモビルスーツだと思うんです。その意味では『IGLOO』って、実は商品としてはすごく的確なところだと思います。ガンプラでズゴックまで買っている人なら、違和感ないんじゃないでしょうか。僕自身はガンダムにそこまでのミリタリー気質ってないんですけど、羨ましいぐらいですね。 僕の中ではあくまでロボットものなので。

進化するCG表現と
深化するガンダム世界

-------CGについては、どんな感想を持たれましたか?
庵野:CGって、いわばプラモデルみたいな世界じゃないですか。プラモで展開してたようなディテールや世界観をいわゆるアニメに置き換えるんじゃなく、CGという似てるけど違う映像に置き換えて、こういう物語と世界が描けているのが、まずスゴイですよね。むしろアニメでやったら、多かれ少なかれ富野さんの匂いがしちゃうと言うか、画面がファーストガンダムに近づいちゃうでしょうから、このテイストは出なかったと思います。
 キャラクターを変えて『80』や『83』のような作品も作られてきましたが、それとはぜんぜん違っていて、その違いが心地いいんですよ。「富野さんのガンダムは関係ない!」というか(笑)、遊び場を提供する素材として使っていて、それをぜんぶ組み替えている。
キャラクターひとつとっても安彦さんの絵の延長じゃなく、実際にそこにリアルに人がいるっていうのを前提にした世界観じゃないですか。一種フィギュア的と言うか、1/6のアクションドールぐらいのイメージで、それが結果としてガンダムの世界観をまたひとつ広げている。改めてそれを許容する世界観を持ったオリジナルのガンダムもスゴイし、それを使ってここまで遊び切るのもいいなと思います。
-------映像的なクオリティに関しては?
庵野:CGが一作ごとに進歩してるのは、やはり気持ちがいいです。『一年戦争秘録』の1話では、正直厳しいところもあったと思うんですけど、モデリングやテクスチャー、動きも含めて、回を追うごとに目に見えて上手くなってますよね。それだけ技術の蓄積があるのでしょう。演出にしてもそうで、一作目のルウム戦役には「違うなぁ」という部分もあったんですけど。
-------具体的には?
庵野:宇宙戦艦が速すぎるんです。カメラが速く動くのはいいんですけど、戦艦自体をあんなに速く動かしちゃうと、MSの意味が画面から伝わってこない。大鑑巨砲に対する航空戦力みたいに、鈍重な大きなモノにMSが群がっていかないと。大きさ感もいまひとつに思えて「CGだとそこはごまかさなきゃいけないのかな?」と思ってました。なんか、CGだと何でもかんでも速く動かしたがる傾向がありません? 「もっとじっくり見せてくれればいいのに」って、常々思ってたんですよ。その点では、『黙示録0079』の1話は、すごく進歩してました。打ち上げ途中の動けないサラミスの姿とか、ビームの描写や戦艦の壊れっぷりなんかは、いい仕事してますね。
 もっとも、実はこういう技術論って、どうでもいいことなんですよ。確かにいま「MSをちゃんと描けるアニメーターが何人残ってるのか?」と考えれば、CG技術は注目されて当たり前ですけど、大事なのは画面から伝わってくる「スキなんだなぁ」っていう感覚のほうですから。それは技術云々でカバーできる部分じゃないんです。

ムチャクチャだから面白い?
ガンダム世界のカオス理論

-------その意味で言えば、『IGLOO』の魅力も単にミリタリズムだけでは完結しないということですか?
庵野秀明氏庵野:その通りですね。僕自身に関して言えば、もともとのガンダムが持ってた「ムチャクチャさ」が、すごく好きなんですよ。巨大ロボットものからリアルロボットものに移行する最初の作品ですから、実はよくよく観ると、世界観もぐちゃぐちゃでなんの整合性もなかったりするじゃないですか。だって、マゼラアタックとか「砲身だけ飛ぶんなら下は要らないじゃん!」って(笑)。でも僕は、Gアーマーとかすごく好き。ガンタンクが宇宙を飛ぼうが、ヤラレメカが毎週出てくるスーパーロボットのノリを引き摺ってようが、なんとかリアルにしようともがいてる、あのカオスな感じがたまらないんですね。そこをリアル一辺倒に考えて、「ジオンのどこにあんなにMSを作る国力あるんだ?」とか考え始めちゃうと、途端に魅力半減と感じます。「本気マジメにやってるんだけどムチャクチャ」っていうのが、ファーストの面白かったところで最大の魅力でもあると思います。
 『IGLOO』がスゴイのも、一見ミリタリズム全開に見えて、ちゃんとそこを解って作ってるからだと思うんです。カトキくんにしても、ヒルドルブをただの戦車にしないで、あくまでザクの延長にしてる。だからこそ、あれが両手にザクマシンガンを持った瞬間、「お見事!」と感じるわけです(笑)。ゼーゴックにしても同じで、カバーが一個外れなくて困ったときに、ちゃんとズゴックの手を使って破壊してるのがいいんですよ。リアル一辺倒で考えたら、ズゴックを流用するにしたって手は要らないハズなんですけど、そこのこだわりがいい。ファーストガンダムも、ビグザムの対空防御が足の爪ですから、そのバランスにすごく魅力を感じます。いい歳をしたオジサンが、大マジメに「対空防御!」って言ってるどうしようもない部分の持つ面白さです。やはり、あそこで普通のミサイルが飛んでたら、現在に残る古典名作となりえたか、はなはだ疑問です。本シリーズは、そういう面白さを解ったうえで、ガチガチのミリタリーに大マジメに振りながらも本来のバカバカシさを残してあるのが素晴らしいですね。愛情もって、ギリギリのいいポジションを狙っているから面白いと思います。
 やっぱり『IGLOO』は、単なる「お仕事」じゃないですよ。趣味が遠慮なく反映されてるのが商品価値になってるし、作品の魅力だと思います。いや、いい感じですよね。極めて、グーです。



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