――まず、川口さんご本人と「ガンダム」の関わりから伺いたいと思います。やはり最初は、模型誌『ホビージャパン』での作例ライターとして、ということになりますか? |
川口:そうですね。80年8月号で、モデラーユニット「ストリームベース」の一員として小田雅弘さんや高橋昌也さんらとフルスクラッチ(編注:プラ材などから完全自作した立体物)の作品を掲載して頂いたのが最初です。以降はホビージャパンや『コミックボンボン』といった雑誌作例やメーカーさんの試作製作なんかもやってましたね。 |
――第一次ガンプラ・ブームも手伝って、当時の影響力にはスゴイものがありましたよね。 世のガンプラ小僧は、みんな「川口名人」のプラモ改造法をマネしてましたし。 |
川口:当時はまだ、設定画に忠実なロボットのプラモデルなんて、前例がなかったですからね。バンダイとしても試行錯誤の真っ只中で、結果お客さん的には「ちょっと違うだろ」っていう商品も多かったんです。そういう不満を「こう直したらいいんじゃない?」とフォローアップできたのが、支持して頂けた理由でしょう。 |
――では、のちにバンダイにお入りになるときには、その実績をひっさげて? |
川口:いえ、そんなことはないですよ。入社試験の面接でも、そういう話はしませんでしたから。研修期間中も普通の新入社員のフリをしていて(笑)、同期の仲間でも知ってたのはほんの数名です。当時の社会人感覚では「ガンプラ」はマイノリティでしたから。 |
――ということは、入社してからも「川口名人」としての経験値が、すぐに活かされたわけではなかったんですか? |
川口:やはり入社してみると、「やりたいこと」と「できること」は、まったく違いましたからね。『ZZガンダム』や『Vガンダム』の頃は、とにかく「コレとコレが本編に出るから、模型化しなきゃイカンのジャ!」という感覚で、自分としても100%近い満足度は得られませんでした。本当にやりたいことをできたのは入社して10年後、95年の「マスターグレード」(以下MG)からですよ。 |
――内部フレームまで再現されたMGシリーズは、当時としては異例なほどマニアックなプラモデルでしたが、なぜ10年経ってから、それが開発できるようになったんです? |
川口:考え方としては、それ以前の10年で「ファンの棲み分け」というのを強く意識した結果です。よく出す例えなんですが『G
ガンダム』って従来からのガンダムファンからは非難轟々だったんですよ。でも間違いなく新しい若い世代のガンダムファンが出来た。結果的に東方先生が出てきてからは従来のガンダムファンも「作品としては面白いよね」と評価してもらえる作品になったんですが、その時に「新しいお客様にとってのガンダムって、ちゃんと考えないといけないんだよなぁ」と。  やはりTVはガンダムにとって最大のメディアですから、初めて触れるお客さんにも喜んでもらえる作品じゃなきゃいけないと思うんですね。逆に当時の段階で15年もガンダムに親しんでる人たちには、OVAや映画などで、対価を払っても観たいと思えるようなクオリティの、コテコテな作品を提供していくのがベストなんじゃないかと。そういう空気を肌身に感じたので、プラモデルも簡単に作れる『ガンダムW』などのオンタイム商品と、作り応えのあるマニアックなMGを、分けて考えられたんです。で、そのぶんMGのほうは「自分が趣味で作るとき満足できるモノを!」と。ただ、MGは当時としては高額商品だったのに、1000円安い『ガンダムW』のプラモデルのほうが、サイズは大きかったんですよ。それで営業からも、「なんでこっちのほうが1000円も高いの?」と言われて。そこで、『ホビージャパン』さんの誌上で開発過程を半年連載してもらったりと、バンダイ入社まえの財産を活用したプロモーション活動を行わせてもらいました。新たなコンセプトを開発担当者が直接伝えて、その担当者が「川口ですよ」というところからの仕掛けですね。 |
――あ、そうだ! 実は川口さん宛てに、HP読者の方からご質問を頂いてるんです。 |
川口:え……なんですか? |
――「ぶっちゃけ、ヅダのプラモは出るんですか?」(笑) |
川口:う……そうですねぇ。プラモデルを開発するには、『IGLOO』そのものが松戸を越えて広がっていかないと、正直苦しいんです。ただ、すでにローソンさんでDVDも発売されていますから、今後の可能性としては充分あると思います。要はバンダイ・ビジュアルさんとも歩調をあわせて、これから「IGLOOでなにをするか」ですよね。トンがったファン向けの松戸公開は終わりましたけど、このままでは「IGLOOってなんだったの?」で終わっちゃいかねないですから、もっともっと広げていきたいです。 |
――広げていきたいし、完全変形MGヒルドルブも出したいと! |
川口:いやいやいや! そこまで言ってませんから!(笑) |
サンライズ井上プロデューサー:でもさ川口さん、昔どっかで「映像に登場したMSは、ぜんぶキット化したいねぇ…。」って言ってなかったっけ? アレって達成できたの? |
川口:え!?……ええと、「Gコレ」とかも入れていい?(笑) |
――つーか、まだキットになってないのってナニがありましたっけ? |
井上:ファーストはぜんぶ出たよね? |
――そりゃもう、ジュアッグまで出てますから。残りはGMキャノン2とか、パワードGMとか、ザメルとかじゃないッスか? あと、もちろんヅダ(笑)。 |
井上:あー。やっぱ、さっさと出してもらわないとなぁ。完全変形MGヒルドルブ。あと、ロケット花火 |
――そりゃ出ますさぁ。出ますよねぇ? |
川口:ええと、その……そこはかとなく仄かに期待しててください(汗)。 |