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Interview

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打ち上げレポート



川口克己氏
川口 克己氏『MS IGLOO』第3話「軌道上に幻影は疾る」DVD製品もお手元に届き、バンダイ・ミュージアムでの上映という形をとった『MS IGLOO』初期3部作も一段落。そこで、この区切りを記念して、今回のインタビューは、バンダイ・ミュージアム側プロデューサーを務めた、川口克己氏にご登場いただいた。
ご存じの通り川口氏は「川口名人」として80年代の大ブームに寄与し、以降20年ものあいだガンプラ開発に携わってきた人である。広くガンダム・シーン全体に及んだその談話から、遂に「『IGLOO』の必然」が明らかになる!? サンライズ井上プロデューサーも交えた収録後オマケ放談も加え、謹んでここにお届けだ!

「川口名人」から「バンダイの川口さん」へ
立場を変えて見えてきた「ガンダム感」

――まず、川口さんご本人と「ガンダム」の関わりから伺いたいと思います。やはり最初は、模型誌『ホビージャパン』での作例ライターとして、ということになりますか?
川口:そうですね。80年8月号で、モデラーユニット「ストリームベース」の一員として小田雅弘さんや高橋昌也さんらとフルスクラッチ(編注:プラ材などから完全自作した立体物)の作品を掲載して頂いたのが最初です。以降はホビージャパンや『コミックボンボン』といった雑誌作例やメーカーさんの試作製作なんかもやってましたね。
――第一次ガンプラ・ブームも手伝って、当時の影響力にはスゴイものがありましたよね。 世のガンプラ小僧は、みんな「川口名人」のプラモ改造法をマネしてましたし。
川口:当時はまだ、設定画に忠実なロボットのプラモデルなんて、前例がなかったですからね。バンダイとしても試行錯誤の真っ只中で、結果お客さん的には「ちょっと違うだろ」っていう商品も多かったんです。そういう不満を「こう直したらいいんじゃない?」とフォローアップできたのが、支持して頂けた理由でしょう。
――では、のちにバンダイにお入りになるときには、その実績をひっさげて?
川口:いえ、そんなことはないですよ。入社試験の面接でも、そういう話はしませんでしたから。研修期間中も普通の新入社員のフリをしていて(笑)、同期の仲間でも知ってたのはほんの数名です。当時の社会人感覚では「ガンプラ」はマイノリティでしたから。
――ということは、入社してからも「川口名人」としての経験値が、すぐに活かされたわけではなかったんですか?
川口:やはり入社してみると、「やりたいこと」と「できること」は、まったく違いましたからね。『ZZガンダム』や『Vガンダム』の頃は、とにかく「コレとコレが本編に出るから、模型化しなきゃイカンのジャ!」という感覚で、自分としても100%近い満足度は得られませんでした。本当にやりたいことをできたのは入社して10年後、95年の「マスターグレード」(以下MG)からですよ。
――内部フレームまで再現されたMGシリーズは、当時としては異例なほどマニアックなプラモデルでしたが、なぜ10年経ってから、それが開発できるようになったんです?
川口:考え方としては、それ以前の10年で「ファンの棲み分け」というのを強く意識した結果です。よく出す例えなんですが『G ガンダム』って従来からのガンダムファンからは非難轟々だったんですよ。でも間違いなく新しい若い世代のガンダムファンが出来た。結果的に東方先生が出てきてからは従来のガンダムファンも「作品としては面白いよね」と評価してもらえる作品になったんですが、その時に「新しいお客様にとってのガンダムって、ちゃんと考えないといけないんだよなぁ」と。やはりTVはガンダムにとって最大のメディアですから、初めて触れるお客さんにも喜んでもらえる作品じゃなきゃいけないと思うんですね。逆に当時の段階で15年もガンダムに親しんでる人たちには、OVAや映画などで、対価を払っても観たいと思えるようなクオリティの、コテコテな作品を提供していくのがベストなんじゃないかと。そういう空気を肌身に感じたので、プラモデルも簡単に作れる『ガンダムW』などのオンタイム商品と、作り応えのあるマニアックなMGを、分けて考えられたんです。で、そのぶんMGのほうは「自分が趣味で作るとき満足できるモノを!」と。ただ、MGは当時としては高額商品だったのに、1000円安い『ガンダムW』のプラモデルのほうが、サイズは大きかったんですよ。それで営業からも、「なんでこっちのほうが1000円も高いの?」と言われて。そこで、『ホビージャパン』さんの誌上で開発過程を半年連載してもらったりと、バンダイ入社まえの財産を活用したプロモーション活動を行わせてもらいました。新たなコンセプトを開発担当者が直接伝えて、その担当者が「川口ですよ」というところからの仕掛けですね。

「いまだからこそ」必要だった
『MS IGLOO』のマニアックさ

――その後、川口さんはバンダイ・ミュージアム側のプロデューサーとして『MS IGLOO』に参画されたわけですが、こちらはMG以上のマニアックさですね?
川口:かなり早い段階で、サンライズさんには「ジオン側の話でいいです!」と言い切ってましたからね(笑)。と言うのは、私がバンダイ・ミュージアム側のプロデューサーとして参加した際、最初に考えたのが、「わざわざ松戸まで来てくださるお客様は相当なガンダム好きで、こだわりのある層だろう」ということだったんです。そういう人が相手なら、極端な話「ガンダムが出なくても満足してもらえるんじゃない?」と。『M.S.ERA』(編注:出渕裕氏による「一年戦争の架空戦場写真」イラスト集)の映像版のような、一年戦争史ドキュメンタリー風の作品だったら、私自身も「見てみたい!」と思いましたし。
――いまやコンビニでもガンプラが買えるぐらい、ガンダムがジャンル化して裾野が広がっているご時世なのに、敢えてその真逆を行くのは勇気が要りませんでしたか? マニアックになればなるほど、間口は狭くなるわけですし。
川口:でもガンダムの場合、逆にそのぐらい特化しないと、フックにならないんですよ。実際いま、近所のオモチャ屋さんにも量販店にも本屋さんにも、ガンダム・コーナーはあるじゃないですか。そうした状況でわざわざ「松戸に行こう!」って思ってもらうには、徹底的にトンがったモノがないと。これは私見ですけど、こういう企画は「ゼロか10か」で、中庸はないと思うんです。もちろん収益も気にはしていましたが、そこで変に丸くなった結果、コアな人たちに「松戸まで来てコレかよ!」と言われてしまったら、その後の広がりも絶望的ですしね。逆に彼らが「コレはイイものだ!」と言ってくれれば、ライトユーザーさんも「なんか松戸のガンダムすごいらしいよ」って、足を向けてくれますから。

ジャンルと化した「ガンダム」
その豊かさが『IGLOO』を生んだ

――その意味では、『MS IGLOO』とMGって、すごく構図が似ていますね。
川口:たぶんガンダム全体が、そういうモノなんでしょうね。ブランドとしてのガンダムは、もはや特定のお客さんだけで維持するには大きくなり過ぎていて、ある程度のポピュラリティがなければ存続できません。「ガンダムはこうあるべき!」っていう認識も、私と『ガンダムSEED』以降のファンとでは、必然的に違うはずです。ですからこれからの「ガンダム」は、そのあいだを行ったり来たりしながら進んでいくしかないと思うんですよ。そのなかで、ミリタリズムに代表されるかつてのガンダムの記号など、残すべきところはMGなり『IGLOO』なりといったものが、フォローすればいいんであってね。あるいは、若い世代でそういう素養がある人が、クラシックな作品群に遡ってくる入り口として。  むしろ私は、過去の認識の上だけを進んでいくほうが危険だと思います。いまや現実に、デュランダル議長は知っててもシャアを知らない女の子とかもいて、そういう人たちも含めて全体としてのガンダムを支えているわけじゃないですか。新しいTVガンダムの企画がスタートする時、開発担当者なんかが出席するバンダイの社内会議では多くの人が「濃いぃガンダム」を望むんですよ。でもそれって「俺の好きなガンダム」がやりたいっていうことで新しいお客様に向けたガンダムを作ろう、ということではないんですよね。 どのターゲットに向けてどういうメディアでどういう作品を制作してもらい、どういう商品を提供するか、っていうことはメーカーの人間としてはやっぱり意識しておかないと、5年、10年経った時に「そう言えば、昔ガンダムってあったよね…」というような状況にならないとも限らない、と思う訳ですよ。
――作品内容から離れてシーン全体を見渡せば、『IGLOO』の特濃な作風にも、必然性があったわけですね。それこそ「『SEED』があるから『IGLOO』もあり得た」というか。
川口:個人レベルでは趣味志向の問題もありますから、「俺はカニ嫌いだから地上から消えてしまえ!」って人はいるでしょうけどね(笑)。
――「じゃあお前、カニ料理を出す北海道料理屋が絶滅して、ホッケまで食えなくなってもイイんか?」と!(笑)
川口:そうそう。むしろカニ嫌いな人に、「こうやって食えばウマイですよ」っていうほうが、味覚の世界が広がって楽しいじゃないですか!

そして特別付録
インタビュー収録後の気になる談話

――あ、そうだ! 実は川口さん宛てに、HP読者の方からご質問を頂いてるんです。
川口:え……なんですか?
――「ぶっちゃけ、ヅダのプラモは出るんですか?」(笑)
川口:う……そうですねぇ。プラモデルを開発するには、『IGLOO』そのものが松戸を越えて広がっていかないと、正直苦しいんです。ただ、すでにローソンさんでDVDも発売されていますから、今後の可能性としては充分あると思います。要はバンダイ・ビジュアルさんとも歩調をあわせて、これから「IGLOOでなにをするか」ですよね。トンがったファン向けの松戸公開は終わりましたけど、このままでは「IGLOOってなんだったの?」で終わっちゃいかねないですから、もっともっと広げていきたいです。
――広げていきたいし、完全変形MGヒルドルブも出したいと!
川口:いやいやいや! そこまで言ってませんから!(笑)
サンライズ井上プロデューサー:でもさ川口さん、昔どっかで「映像に登場したMSは、ぜんぶキット化したいねぇ…。」って言ってなかったっけ? アレって達成できたの?
川口:え!?……ええと、「Gコレ」とかも入れていい?(笑)
――つーか、まだキットになってないのってナニがありましたっけ?
井上:ファーストはぜんぶ出たよね?
――そりゃもう、ジュアッグまで出てますから。残りはGMキャノン2とか、パワードGMとか、ザメルとかじゃないッスか? あと、もちろんヅダ(笑)。
井上:あー。やっぱ、さっさと出してもらわないとなぁ。完全変形MGヒルドルブ。あと、ロケット花火
――そりゃ出ますさぁ。出ますよねぇ?
川口:ええと、その……そこはかとなく仄かに期待しててください(汗)。


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