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音響監督:藤野貞義氏
藤野貞義氏『恒例のインタビューコーナー、今回はそのリアリティのある音作りを支える音響監督の藤野貞義さんにお話を伺った。
ある意味アニメーション以上にリアリティを要求される3DCG作品である『MS IGLOO』。さらにガンダム作品としての“お約束”も必要でもある。つまり、二つの条件を満たさねばならぬ高いハードルが存在するわけであり、そこには多大なる苦労があることだろう。
本作品の音作りは、どのようにして紡がれていったのだろうか。

音に関するすべてを司る
音響監督という仕事

-------最初に音響監督とはどんなお仕事なのかを教えてください。
藤野貞義氏藤野:キャスティングから効果音、BGM(劇中音楽)作り、音に関する全てに携わり、チーフディレクター(監督)やプロデューサーの手足となり、口をはさむ。
最終的には全ての責任は監督にとってもらいますけどね!(笑)
まぁ冗談はさておき、作品が決まると企画書、設定、シナリオを読んで、まずはキャスティングの手伝いです。このキャラクターにはどんな役者がいいか候補をあげてボイスサンプルを集めたり、オーディションをしてレギュラーキャストを決めていく。
 次に、劇中でのBGMを書いていただく作曲家を選ぶ。(既に決まっている場合もありますが)そして監督と打ち合わせしてBGMのメニュー書き、このシリーズにはどんな曲がどれくらい必要かメニューを書いて発注します。と同時に音効さん(効果を作る人)を選び、音のイメージ、レギュラー音を決めていきます。
あとは一話一話ゲストをキャスティングしてアフレコ現場で台詞の交通整理。
毎回のBGMを選曲して、効果音と台詞とMIXして映像の音を仕上げていく。
まっ、現場であれこれと口をはさむ仕事です。(笑)

多くのガンダム作品に関わる
ガンダム音マスター

--------藤野さんと言えば、多数のガンダムシリーズの中でも、もっとも多くの作品を担当されていますよね。
藤野:そうですかね。「Zガンダム」「ZZガンダム」「F91」「0080ポケットの中の戦争」「逆襲のシャア」。最近ではこの「MS-IGLOO」の他に「SEED DESTINY」と「劇場版Zガンダム」ですが・・・。ファーストガンダムのキャラクターが登場する作品が多いので、その印象が強いのかもしれませんね。
ただ、自分でも20年以上続いているガンダムワールドの特殊な決まり事(富野さん本人も知らないと云っている様なものもありますが)、独特の台詞まわしを何の抵抗もなくすんなりと受け入れてますが、身体半分以上は浸かっているのかもしれませんね(笑)
-------その中でも、今回の「MS IGLOO」という作品は、ファーストガンダムと同じ時代設定ながら、ガンダムとしては最も新しい映像表現をしている作品ですよね。それを見られた時には、どんな感想を持たれましたか?
藤野:最初にサンプルの映像を見せてもらった時、「おっ」とうなってしまいました。
「実在の宇宙新造戦艦が漆黒の空間を航行している?」とね!
モビルスーツもサンライズ独特のブラシ質感を残しつつ重みのある立体映像には感動しました。ただキャラクターは未完成だったせいか、顔の表情か動作なのか、なんとなく違和感があり、昔自分が携わった人形アニメを見た感じがしました。
でもすごいものです。回を追うごとにリアルでナチュラルな動きになっていきました。今では異様にギョロっとした目の艦長さんに体温と情を感じるのですよ。実在している俳優の様に錯覚してしまうんです。“あの人何の洋画に出てたんだっけ?”って。

古くて新しい
IGLOOの音作り

-------で、具体的に作業にあたって。作品全体の方向性に関してはどのようなイメージを持たれ、それにあわせて音を付けるにあたっては、実写映画に近い感覚で作業されたんですか?
藤野貞義氏藤野:今西(監督)さんと打ち合わせした時、「古い話を如何にして新しいものにしていくか」と云う事でした。ここでの“古い話”と云うのはファーストガンダム時代のストーリーが舞台になっていると云うことです。《30代のガンダムファンの中にはファーストは実在した歴史として捉えている方もいらっしゃる様ですから・・・笑》
たしかにフルCGでリアルなキャラクターが演じ、ましてジオンの側の話を描いていくとどうしても第二次大戦末期のドイツ軍人の悲哀、悲話を描いた作品の様な印象が強く、古さを増しているかもしれない。実際、この映像にヒトラーの演説や“リリーマルレーン”が流れてきてもおかしくないほどに。(笑)
でも、それでいいのかなと思って。・・・・・“新しいもの”は実写やセルアニメでは描けない斬新な映像に期待して。音はリアルで古風なものに、と云っても実物のモビルスーツがあるわけではないので、原点とも云うべき“ファーストガンダム”の音を基調したものですけどね。テーマ曲もなぜか“ボレロ”にこだわってみました。
実に無責任ですね(笑)
――今西監督は音にも色々こだわってるのではと思いますが。様々なオーダーがあったのではないですか。
藤野:はい。実に細かく適確な指示があります。でも、思いは(作品に対する)同じなのでだいたい一致してます。ところで、この作品のスタッフは凄い人(有名人)ばかりで。
今西さんは大変だと思いますよ。こだわりのある方々の思いを全て受けとめなくてはならないのだから・・・(笑)
-------えーと、話を『MS IGLOO』が最初に上映されたバンダイミュージアムの方に移したいと思いますが、セッティングなどにかなり苦労されたということですが・・・。
藤野: バンダイミュージアムでの上映は苦労しました。「シアターB1」はもともと駐車場だったスペースの様で、吸音も何もしてなくて響くだけ響くんです。
で、その劇場はステレオ用の設備しかなくて。その劇場だけの為のステレオMixを作ったんです。劇場の方も壁や柱に吸音用の布を張ったり巻いたりと良い状態で鑑賞できる様に手を加えていました。しかし、天井の高さと横に広い設定条件でどうしても本来の音が出ないのです。聞こえてほしい台詞が聞きづらくなったり、定位がはっきりしなくなったりと。また台詞を鮮明に出そうとすると迫力と臨場感に欠けてしまう。それで再びMixしなおしたり、このスペースだけの為のリア用ME(音楽と効果音)Mixを作ったりいろいろ試してみました。そんな苦労を重ねた劇場での上映が終わってしまうのは寂しいですね。
-------藤野さんといえば、業界のベテランで声優さんからも多大な信頼を受けているという話を聞くのですが、その秘訣はなんですか?
藤野: 多大な信頼とか秘訣と云うのは大袈裟ですが、ただ長くこの仕事をやってて歳をくっているだけですよ(笑)。もちろん仕事ですから真剣にやってますが、いつも作品を楽しんでいるという気分の方が強いです。現場は沢山のスタッフやキャストがいて、それぞれの思いが交錯してます。意見の食い違いもでます。だけど、みんなこの作品が好きでおもしろい物にしたい、いい作品に仕上げたいという思いは一緒なんです。そんな思いは時として必要以上の緊張感を生みます。過ぎた緊張は場の雰囲気を壊すし、作品の仕上がりもギクシャクしたものになってしまう気がします。何よりも自分が楽しめなくなってしまう(笑)。だから、いつも自分に一番心地よい穏やかな現場作りを進めています。
(結構無責任です)(笑)

高度な技術が投入された
IGLOOのオト

-------では、実際に『MS IGLOO』のキャスティングについては、どうだったのですか。いわゆるアニメ的ではないキャスティングだとは思うのですが。
藤野貞義氏藤野:どこまでがアニメ的という表現はよく判りませんが、この作品のキャラクターはCGでより人間に近いリアルな映像になっています。ですからキャスティングは年齢、体格、性格がキャラクターに近い人を意識して選んでいます。そう云う意味では洋画の吹き替えに近いキャスティングと云う事になるのかも知れませんね。ガンダムシリーズには独特の台詞廻し、つまりアムロであり、シャアであると云うしゃべり、文章体があるんです。この作品ではアムロやシャアが出てくるわけではありませんが、そのジオン軍の雰囲気も残しつつ、よりリアルに描かれた時代(ジオン=ドイツ軍=第二次大戦)の台詞廻し、重み、渋味が必要です。ベテランの大木さん(本部長)や飯塚さん(艦長)にはずいぶんお力になっていただいてます。(その時代を経験されているでしょうから・・・笑)
キャスティング全体は非常にいいバランスのとれたものだと自負しています。ただ舞台が軍用艦の中なのでちょっと華が少ないのが・・・・・・あ、いえキャディラックは華ですけどね(笑)
-------では、新シリーズである『黙示録0079』のお話しを伺いたいのですが、劇場ではなく、OVAだからテレビで視聴することを前提に音作りをされているんですか?
藤野:そんなことはありません。テレビで視聴といっても今は結構ホームムービー(シアター)のシステムが普及してますから。ただ劇場と違うのは、DVDも同じ5.1chでも8畳から12畳のスペースで鑑賞する事を意識してMixしています。今回の『黙示録0079』の一話は宇宙空間から一気に地表に突入し攻撃を繰り返すと云うストーリーです。上から下へ一気に移動する感覚、大気圏突入時のG(重力圧)を5.1chの作り出す音で体感していただければ・・・(と云っても、僕もこの音を作った人も実際に大気圏突入したことはありません・・・笑)。でも音の技術的なものも感じて欲しいのですが、なんと云ってもやっぱり話しの内容に感じて欲しいですね。
-------お話しを楽しんで、それにそうした感覚が付随して、音の迫力を体感してもらえれば、なおいいと。
藤野:そうそう。いつの間にか自然に入ってもらえるほうがいいですね。最初からこの音で入るぞって感じじゃなくてね、ふと気が付いた時に凄い迫力だとか、なんかその世界に入り込んでいたとかという感覚のほうが嬉しいですよね。



 藤野さんは、飄々とした感じで話をされる方だった。確固たる自信と技術、そしてバランス感覚が、現場に信頼を集め、20年にもわたってガンダムの音を作り続けてきた理由なのだろう。ガンダムというタイトルは藤野さんのような優秀な人々によって、今僕たちが持つイメージが築かれていったことは、知っておくべきことなのだと思った。


(C)SOTSU AGENCY / SUNRISE