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Interview

今西隆志氏
荒牧伸志氏x山根公利氏
松田剛吏氏
藤岡建機氏
永瀬唯氏
出渕裕氏
久保聡氏
Taja氏
大橋恵氏
大熊朝秀氏x井上幸一氏
大野木寛氏
スーパー・エキセントリック・シアター
スーパー・エキセントリック・シアター
川口克己氏
今西氏×井上氏×久保氏
小畑正好氏
出渕裕氏
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Event

声優コメント

打ち上げレポート



大橋恵氏
 9回目となるインタビューは、本編を盛り上げる重要な要素の一つである音楽を担当した、大橋恵さんにご登場いただいた。
 数あるガンダム作品の音楽の中でも一際骨太な印象の『MS IGLOO』の音楽。インタビュアーは当日までは、てっきり”大橋恵”さんを「30代後半〜40代の屈強な男性」と思いこんでいた。しかし、実際の大橋さんはまったく正反対。「華奢で可憐な20代の女性」だったのだっ! 
 何という驚愕の事実っ! 「この体のどこにあの音楽を生み出せる源があるのか?」うろたえるインタビュアーを後目に、大橋さんはサントラ誕生の経緯を静かに話し始めた……。

「苦しいけど頑張っている」イメージの
トランペットと『IGLOO』の音楽

――ガンダム関連の作品の音楽を担当してほしいと依頼があった時には、どのように思われました?
大橋:今まではチームを作って、東映の戦隊シリーズなどの音楽を手掛けていたのですが、私一人で、ひとつの作品を担当するのは初めてで、さらにガンダム関連の作品だったので、プレッシャーも大きかったし、「私にできるだろうか?」という不安もありましたね。

――音楽制作に入る際には、作品に対してどのような説明とオーダーがあったんですか。
大橋:まず、『MS IGLOO』という作品はジオン軍側の話だということを伺ったんです。私自身も、小さい頃にテレビで『機動戦士ガンダム』は良く見ていたのですが、自分の記憶の中には「ジオン軍は敵側だった」という印象が強かったので、どんな作品になるのか想像がつかなくて、不安を感じつつも興味も湧いてくる感じでしたね。
 ただ、子供の頃から、『機動戦士ガンダム』という作品は好きで、細かい兵器に関する部分は良くわからなかったですけど、劇中で描かれる人間ドラマはすごく興味が惹かれるものだったので、今回音楽を作る際にもそちらに重心を置いて考えていきたいなと。その一方で、今西監督からは曲のイメージとして「物語自体が、明るい結末に向かわない作品だけど、暗いイメージにしたくない」と言われまして。イメージの参考として見るように言われた映画があったのですが、その映画の曲もイメージ的にはちょっと明るい、青春映画的な印象の曲で。そういったイメージと作品をすりあわせるのに苦労しましたね。

――曲にしていくにあたって、どのようなことを考えられましたか。
大橋:作品を見る方々の大部分は、ガンダムの歴史を知っていて、「ジオン軍は負ける」ということが判っているじゃないですか。だからこそ、暗いイメージというのを引っ張りながらも、そこで頑張っている人たちの姿を表現できるようにしました。登場人物たちは、ヒーローではないですけど、悪人でもないので、その微妙なニュアンスを生かす方向を考えましたね。この作品は、キャラクターやメカのアクションに細かく曲を付けていって、クローズアップされる部分を強調するものではないと思ったんです。そういう意味では、一歩引いて物語を見るというか、音楽に感情が入っていくのではなく、俯瞰して作品に溶け込ませるようなイメージですね。それによって、作品の持つ空気を感じさせたいと思いました。そこで、楽器の選択が吹奏楽系になったんです。私としてはトランペットという楽器が「苦しいけど頑張っている」というイメージがあって。トランペットを使うことを前提にして、メロディを膨らませていった感じですね。

――オーケストラに使用する楽器の選択も、そうしたイメージの影響が大きいですか。
大橋:そうですね。電子楽器などは、意識的に減らして生楽器を増やしています。CG作品なので、音楽的には実写映画に近い感じにしなければならないと思ったということもあります。また、ドラムやギターを使ったサウンドだと、やはりヒーロー的なイメージが強くなってしまうし、華やかさが出てしまう。でも『MS IGLOO』は、もっと大人っぽいイメージもあるので。また、今までのガンダム作品のような流れにならないようにも意識したりもしているので、気が付けばちょっと古い、オーソドックスな印象になっているんですが、逆に作風にあったかと思います。そういう意味では、意外と制約が多い音楽作りになっていますね。オーケストラの規模も、通常よりも大きい感じで組んでいますし、弦楽器が多い配置にすることで、壮大なイメージも出せたかと。また、劇場という広い場所で聞くということも意識しています。


“ボレロ”からはじまった『IGLOO』の
音楽は、ラテンフレーバー!?

――他に苦労されたところはありますか?
大橋:監督自身もかなりこだわられていたので、イメージするものをきちんと読み取って、それを曲にする作業が大変でした。最初の打ち合わせのときから”ボレロ”をメインにするというお話はいただいていたのですが、その他に監督からキーワードとして「ラテンなイメージで」というようなことも言われたんです。打ち合わせしながら、頭の中でラテンミュージックが流れてきたりして(笑)。でも、話しているうちにそれは曲調のことではなく、ラテン民族的なスピリットのことを指していると判ったんです。

――音楽としてのラテンは、ラテン・アメリカの音楽で、曲調も明るいですが、『IGLOO』でイメージされていたのは欧州のローマ帝国や現在のキリスト教文化に繋がる”ラテン民族”的なエッセンスの方だったと。同じ言葉でも大違いですね。
大橋:そうですね(笑)。制作過程ではこうした今西監督のイメージを具体化するのにデモテープを3〜4回作りました。通常だとデモテープは1〜2回作る程度なので時間はかかったのですが、その結果いい曲に仕上がったと思います。

――音楽は、映像制作と同時進行で作られたとのことですが、主にどのような資料を参考にしたのですか? また、実際に完成した映像を見られての感想も聞かせてください。
大橋:イメージボードとシナリオを見せてもらって、さらに、参考とする映画のビデオもありました。ただ、全体像を把握できてはいなかったので、映像とのマッチングに不安があったんです。手探りで提出した曲もあったので、オーダーにきちんと応えられているかどうかが気になっていたのですが、思った以上に合っていて安心しました。作品自体に関しては、改めて興味深い話で、すごく面白かったです。「この話が、『機動戦士ガンダム』のあそこにつながるんだ」という部分も含めて、楽しめました。

――最後になりますが、サウンドトラックが発売になりますが、どこを楽しんで聞いてもらえればと思っていますか?
大橋:やはり、オーケストラ中心のサウンドということで、私も監督もメロディラインにこだわっているので、そこを聞いて貰えたらなと思います。劇中では、音楽が前に出過ぎないように気を付けていますが、サントラでは音楽がメインなので、この作品の大きなストーリーの流れを意識して、登場人物たちの心情などを眺めていくような気持ちで聞いていただけるといいですね。



(C)SOTSU AGENCY / SUNRISE