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Interview

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声優コメント

打ち上げレポート



大熊朝秀氏x井上幸一氏
大熊x井上 松戸バンダイミュージアムでの公開を好評のうちに満了し、一つの大きな区切りを迎えた『MS IGLOO』だが、本インタビューはヒートアップ! 記念すべき第10回となる今回は、シナリオを担当した大熊朝秀氏と、プロデューサー井上幸一氏のスペシャル対談が実現した。とくに大熊氏は、ご本人曰く「サンライズにも沢山いる、名前を出したり経歴を並べたりが苦手な人種」だそうで、インタビュー記事もなかなかのレア度。「謎に包まれたその正体や如何に!」と、意気込んで向かったインタビュー現場だったが、いざ始まってみれば脱線上等の大放談に発展し……。その一部始終、刮目してお読みあれ!

四文字熟語禁止!
雰囲気があればOK!

大熊:あのさ、いきなりで悪いんだけど、今回のインタビューはどうしたの? 僕なんか呼んで、遂にネタが切れたの?(笑)
――そんなコトないですよ(笑) ただ大熊さんに関しては、まだよく知らない方も多いようですから。
大熊:そう? じゃあ取りあえず言っておくけど、僕は右翼じゃないよ(一同爆笑)。
――いやいやいや、誰もそんなコト言ってませんから!
井上:まあ、普通はやっぱり監督とかキャラクターデザインとか、メカデザインとかに目が行っちゃいますからね。コアなガンダムファンの方なら、『0083』のシナリオライターっていう経歴は知ってると思うけど。
大熊:僕のなかでは、大熊というオトコはとくにライターに限定された人物じゃないんだけどね。むしろ「今西監督を助ける影のオトコ」って言うか。
――でも『MS IGLOO』では、シナリオを担当なさったんですよね?
大熊:肩書きとしてはシナリオライターなんだけど、出来上がった作品は「今西さんと出渕さんと大熊の個性が渾然一体になったモノ」だからねぇ。トータルパッケージとしてはまとまってると思うけど、「あそこはドイツっぽいから出渕さんだよね」ってところもあるじゃない(笑)。そのへんは各人の棲み分けが、面白く出てるんじゃないかな?
井上:その点で言えば、「あの用語はどこから出てくるんだろう?」っていうセリフには、大熊さんのカラーが出てると思うけど?
――軍事用語も多いですからね。「舫解け!(※)」とか、分からなかった人も結構いたようですし。 (※編注:「もやい」。船と船を結び付けること。転じて船をつなぐ「舫綱」を差すことも)
大熊:それは軍事用語じゃないんだけどなぁ。ただね、企画の段階で出渕さんに「四文字熟語禁止!」って言われたことはあった(笑)。「捲土重来」とか、ついやりたくなっちゃうんだけどね。まあ彼的には、そうすれば「大熊の暴走を封じ込める」って踏んだんじゃない?……甘いよね!(笑)
井上:慣用句とかも、やたらと出てくるしね。舫もそうだけど、観た人が「何を言ってるのか聞き取れない」っていう場合、元の言葉を知らないケースもあるんじゃないかな?
大熊:かも知れないね。でもさ、それを言ったら出渕さんはもっと極端なんだよ。「“艦長”の発音がなっとらん!」って、ずーっと言ってたもの。正しくは旧日本海軍の発音は浣腸と同じような「かんちょう」って発音なんだよね。
――え!? そうなんですか?
大熊:そうですよ。だけど、いまの声優さんはそんなの発音できないじゃない。なのに彼ときたら「映画のロー○○○でも“かんちょう”なんだよ!」だって。「いや、アンタ関わってたじゃないのよ!」って(笑)。第一、ガンダムワールドではずっと同じだったんだから、いまさら『IGLOO』だけ変えてもおかしいでしょ?
井上:ちょ、ちょっと大熊さん! なんか溜まってるの?(笑)
大熊:いやホラ、今西さんは全体を束ねなきゃいけないから、モノを言うにも慎重でしょ? そのぶん大熊さんは、無責任に言いたいこと言い始めるワケよ(笑)
 でもマジメな話、例えば対象年齢が低い作品を、子供に分かり難い言葉を使って面白くなくしちゃうのは、いけないんです。だけど『IGLOO』は、細かい言葉の意味が分からなくても雰囲気さえ醸し出せれば、充分鑑賞に耐られるわけです。一部には「オヤジキラー作品」とか言ってる人もいるぐらいなんだから。
井上:正直オヤジでも、出てくる言葉の知識を持たない人は相当いるはずなんだけど、知識がなきゃつまんないかって言われれば、そんなコトはないわけだしね。
大熊:船乗りがまったく船乗りの用語使わなければ、分かり易いかも知れないけど雰囲気は醸し出せないもんね。

恐るべき執筆風景
「決して後ろから見ないで下さい」

――雰囲気を醸し出すセリフといえば、「願います!」なんかも、ミリタリズム全開で印象的でした。
大熊:そのへんは、ジオン側から物語を描けたのが大きいんですよ。これが連邦軍人だと、すでにいろんな作品で喋ってるセリフ回しに合わせなきゃいけないから。
井上:「窯に火をくべたまえ!」とかも、“船乗り”入ってるよね。
大熊:あれには「アタマでちょっとドついとこう」っていう意識もあったね。最初のほうで変な言葉を入れとくと、山場に入れるより頭に残るんですよ。逆に、山場に入れて残るセリフっていうのは、物凄く大変なんです。観客の気分を崩さないようにしながら、でも予想とは違うセリフをピシっと入れなきゃならない。料理に入ってるワサビとかスイカに振る塩って、料理そのものとは逆の味を入れることで、本来の味を引き立ててるじゃないですか。あれと同じ。だから山場のいいセリフを失敗すると、ガラガラガラ〜って大雪崩(笑)。勢いもテンポも早くなってるから、噛み締めてるヒマもないし。
 ましてヘタクソな編集がやるとさぁ、セリフの内容も考えずにテンポだけで編集してくるでしょ? あれは良くないね! よく聞いて欲しいセリフは、ちょっと動きが悪くなっても「あと3コマ聞かせろよ!」……えっ、ライターがそんなコト言うなって?(笑)
井上:コマの話をするライターってのも、珍しいよなぁ。
大熊:映画マニアなんだよ。
井上:でもまあ、そこは勢いで行くところとセリフを使い分けてくれてますよ。シナリオ読んでても、映画としての流れがすごく見えるし。それに大熊さんのシナリオ、「ここは何秒」って、ちゃんと書いてあるじゃない!
大熊:普通はコンテマンの仕事だから、やったら怒られちゃうんだけど。ホント、こんな失礼なライターいないよなぁ。
井上:まあそのぐらい、シーンごとのタイムスケジュールが出来ていて、それをどういう風に切り取るか、計算しながら書くタイプだってことだよね。
――秒数が書いてあるってコトは、書くときにはやっぱり実際に喋ってみるんですか?
大熊:そりゃ読みますよ、ストップウォッチ片手に。と言うか、「そ、りゃ、よ、み、ま、す、よ」って文字数数えれば、「アニメなら12コマ、実写なら28コマ!」っていうのは、大体分かりますし。
井上:シナリオライターの方は、大体読みますよね。昔は大泉学園に「カトレア」っていう喫茶店があって、そこで多くのシナリオライターさんが脚本を書いてたんですよ。で、脇を通ると皆さんセリフをブツブツ言ってるワケ!(笑)新人のウェイトレスさんだとクスクス笑いながら通り過ぎるんだけど、慣れてる方は全然気にしないの。
大熊:それを言ったら、コンテマンのほうが悲惨だよ。声出しながらタイム計ってたら、事務の人に××××かと思われたもん。事務の人以外では、新人さんとかもそう。「白い目」っていうのがどういうモノか、味わったことある?(笑)
――なんか、執筆中の大熊さんを、そぉっと後ろから見てみたい気がしますね。
大熊:でもね、後ろからなんて、じっくり見てられないんじゃないかな。「1行書いては邪魔が入る」みたいな書き方ですから。
――どこかに何日も篭って、っていう書き方じゃないんですか?
大熊:それができるなら、翌日には書き上がっちゃいますよ。「あそこの領収書もう届いたかな?」とか気にしながら、1行ずつ書いてます。まあ、考えるのはセリフだけですからね。
井上:シナリオ以前の段階で、「もうちょっとこうしようよ!」とかの基本構成は煮詰めてあるもんね。ただ、僕が知ってるほかのライターさんは、セリフも書いては戻りを繰り返してる場合が多いんだけど、大熊さんの場合は頭からストレートに書けちゃうの?
大熊:初稿の段階ならね。欠番もほとんど出ないし。
井上:やっぱり。おかげでプロデューサーからすると、「いつシナリオが上がるのか」っていうのが、執筆時間から逆算しやすいんです。当然ライターさんだから悩む部分もあるんでしょうけど、その点は信頼できますね。

モデラーもニンマリの整合性と
「キャデ萌え」さん卒倒の裏話

大熊:信頼っていう意味では、今西さんもライターの人選には困ったんじゃないの? フルCG作品の『IGLOO』では、作れる物量の問題をある程度分かってる必要があるから。
――と、言いますと?
大熊:アニメの場合、極論「実写だったらセットにいくらかかるの?」っていうモノも、エンピツで描けちゃうワケですよ。当然それに慣れてるライターさんは「できるだけお客さんが驚いてくれるように」って発想でシナリオを書こうとしますよね? でもCGの場合、「こんなにモデリングできないよ!」っていう問題がありますから、書き方も変えなきゃいけないんです。
井上:昔のロボットアニメでは「稜線を埋め尽くす敵機」って書かれたシナリオもあったもんね。アニメなら描けますけど、CGは会議室の壁ひとつとっても、いちいちモデリングしなきゃいけないから。  それと、やっぱりCGはウソがつきにくいんです。パプア補給艦が一生懸命投下してるコンテナにしても、「ヨーツンヘイムにはいくつ積めるの?」っていうのが、画面上で数えられちゃうんですね。「サラミスの甲板にボールは載るのか?」とかもそうだし。
大熊:ウソもつけなくはないんだけど、バレやすいですよね。アニメだったら「ガンダムが立ったまま歩ける地下通路」とかも平気なんだけどさ(笑)。
井上:今西監督は「そういうトコはマジメにやる!」って思ってるし。だから大熊さんも、そのへんは遠慮して書いてるでしょ?
大熊:そこはやっぱり、モデラーが喜んでくれるような作品でもあって欲しいから。同スケールのサラミスとボールを買って、乗っけてみたら「アレ? 合わない」っていうんじゃ……ねぇ?
井上:つまらないよね!
大熊:だから、ホントはプラモデル作りながら書ければ面白いんだろうな。最近はぜんぜん作る暇ないけど(笑)
――そういうモデラー気質も含め、『MS IGLOO』はコアなファンの支持を集めていますよね?
井上:僕は「オヤジキラー」どころか「ジジイキラー」だと思ってるところもありますよ。たとえば年配の方に「『IGLOO』ってどういう作品なんですか?」って聞かれたら、「ロボットものじゃなくて戦争映画です」って答えるし、そうすると向こうも「観てみたい!」って言ってくれる。やっぱり、戦争映画というモノに対してある種の美学を持ってる人ほど、面白く観られる作品になってるんじゃないかな?
大熊:なんかさ、それじゃ僕が戦争映画しか書けないみたいじゃん!(笑)いろんな作品を書いてるのよ?
井上:いや、もちろん知ってるよ。さすがに変身魔女っコものとか書いてたら驚くけど。「○○にゃ!」とか言いながら。
――それはやっぱり、後ろから見てみたいですね。
大熊:だからどうして後ろからなのよ!?(笑)
井上:まあ、さすがに『IGLOO』には、魔女っコみたいなのは出てきようがないけどさ。そんなコト言ったら出渕さんに殺されるし(笑)。「もう少し色気が欲しい」っていう声は、たまに聞くけど。
大熊:え、なんで?
井上:それがね、最近は「キャデ萌え」の人もいるみたいなのよ。
大熊:あぁ、それなら大丈夫。もし本物が目の前にいたら、たちまち醒めるから(笑)。どっかの女王さまと勘違いしてるのかもしれないけど、そんなひとじゃありませんよ。モデルは男だもん。
――ええ!? そうなんですか?
井上:「キャラクター」っていうのは、要するに「人格」だから、実はモデルの性別はあまり関係ないんです。男性キャラクターのモデルが女性っていうケースもありますし、癖とかそういう部分は、いろんなとこから持って来ますしね。

燃える情熱のある限り、
「実験部隊」の戦いは続く!

井上:それにしても、やっぱり『IGLOO』はガンダム作品のなかでも異質だね。最近あちこちのイベントでガンダム作品のオープニング集を観るんだけど、その度に思うよ。
大熊:いや、異質なのはイイことです! そもそも「松戸のガンダム・ミュージアム限定公開」っていう特殊な形で発信したからこそ、こういう面白い形にできたワケだし。3Dで作ることも含め、もっと広いマーケットが想定されてれば、この企画は通ってないよね。結果論だけど、面白いチャンスがあったと言うか。
井上:確かに松戸での1〜3話上映は、いろんなことを試せるいい機会だったよね。企画自体も「今回は特殊なケースだから、“なんで今までなかったの?”っていう作品を、ちゃんと作れまっせ!」っていうところから始まってるし、それで集まってきたのが、いまのチームだから。言うなれば、みんなで603試験隊をやってたようなモノだよ(笑)。
大熊:僕の仕事なんて、半分以上は実験部隊に等しいもんなぁ。いつも技術とイタチごっこでさ。フル3Dで物語を作るっていうのも事実上初めてに近いから、いくら狙い撃ちのような脚本を書いても、作ってみないと分からないことが沢山あって。それでも整っていない技術を使って、儚い戦果を挙げてきたワケですよ。そういうトライアルは、これからも途切れることなく続くんです。
――では、リアル603の航海は、まだまだ終わらないと?
井上:もちろん『IGLOO』は、「松戸のための企画」というのが第一義ですから、無事に3本上映した段階で、ひとまずは使命を果たして終了しました。ただ一方で、『IGLOO』というタイトル自体も支持を得られましたから、続編はやりたいです! どういう形式になるかわかりませんけど。とりあえず大熊さん、もう脚本書いちゃってるしね(笑)。
大熊:だって、企画が決まってから書いても間に合わないしさ。そこは勝手に「日の目を見せるんだ!」と思い込んで書くわけですよ!(笑)商業映画にも、ターゲットを含めた戦略がカチっと決まってる作品だけじゃなく、情熱で支えられてる作品もあるんです!
井上:「決まってから作ったら間に合わない」っていうのも「それでクオリティが落ちたら勿体ない」っていう意味だもんね。
大熊:だから『IGLOO』って、「完結させたいよね」っていう作品じゃないんですよ。一本一本の作品はすでに完結しているんだけど、「ほかにもいろんなパターンが見せたいよね、だからもうちょっと粘りたいよね」っていう情熱だけがある。その情熱は続いてるんだよ!
井上:いや、だから別に止めてないじゃない(笑)。大熊さんも今西さんもさ。


(C)SOTSU AGENCY / SUNRISE